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16.その頃姉は…… ※カリーナ視点

「――なんなのよ、私は聖女よ!? どうして私がこんなにこき使われなきゃならないのよ……!」


 モカを追い出してから、私は毎日想像以上の労働を強いられている。


「あの子はこの仕事量を本当に一人でこなしていたの!?」


 私はもともと、王太子のレナード殿下が好きで、レナード殿下と婚約したかった。

 けれど彼は聖女である私ではなく、幼馴染の女と婚約してしまった。


 仕方ないから第二王子のヴィラデッヘ様で我慢しようと思ったけれど、ヴィラデッヘ様がモカのことを好きなのは知っていた。でも私たちは双子。顔は似ているのだから、きっとすぐに私のことも好きになってくれると思い、あの子を悪く言って王都から追い出した。


 これからは王子の婚約者、そして唯一の〝真の聖女〟として、華々しい毎日を送るはずだった。


 それなのに、予定と全然違うじゃない……!!


 聖女が仕事をするために用意されたこの魔法部屋は、邪魔が入らないよう他から遮断されている。

 そのため、とても孤独。私だってここで仕事をしたことはあるけれど、そのときはモカがいた。モカは真面目だから、与えられた仕事をろくに休みもせず淡々とこなしていた。


「これじゃあ、あの子がいたほうがよかったわ……!!」

「カリーナ様、上級回復薬はまだ完成しないでしょうか? ここ数日、突然製作数が落ちたようですが……」

「うるさいわね! 今やっているわよ!!」


 部屋の外から、城の従者に急かすようなことを言われて、苛つきが増していく。

 これは私にしか作れないというのに、なんなのよ。偉そうに指図するんじゃないわよ!


「ねぇ、ヴィラデッヘ様は何をしているの? 少し休憩にして、ヴィラデッヘ様に会いたいのだけど」


 せっかくモカを追い出したというのに、ヴィラデッヘ様とデートの一つもできていない。

 こちらから扉をばんっと勢いよく開けると、従者は驚いた顔で私を見た。彼はヴィラデッヘ様のお付きの者だわ。


「それが……、ヴィラデッヘ殿下のご命令で、今日の分ができるまでカリーナ様を外に出すなと……」

「はあ!?」

「依頼されている回復薬の納期がかなり押しているらしく、みんな困っていると……」

「そんなの知らないわよ!! 私は疲れているの! 休まなければ回復薬も作れないわ!!」

「しかし、これまではカリーナ様お一人でこの量をこなされていたんですよね……?」

「……っ」


 びくびくしながらもそう口にした従者に、私は言葉を詰まらせる。


 これまではモカ一人に任せていたなんて、今更言えないし……。

 でも、本当にあの子はこの量を一人でこなしていたの!? 嘘でしょう!? きっと何かずるい手を使っていたんだわ!!


「今はちょっと体調が優れないのよ。だから休ませてちょうだい!」

「あ……っ、カリーナ様!」


 随分焦っているのね。私をこの部屋から出したら、彼がヴィラデッヘ様に怒られるのかしら?

 でも、平気よ! ヴィラデッヘ様は私に優しいもの。私からヴィラデッヘ様に直接頼んで、仕事量を減らしてもらいましょう!



 そう思い、従者の制止を振り切ってヴィラデッヘ様の部屋に向かう途中。


「――そうだよ、本当に君は可愛い人だね」


 廊下の隅のほうから、ヴィラデッヘ様の声が聞こえた。


「ヴィラデッヘ様? 何をされているのです?」

「!? カ、カリーナ!?」


 そちらへ近づき、声をかける。そうしたら彼は大袈裟に肩を揺らして、勢いよくこちらを振り向いた。

 彼の目の前には、私の知らない女性。


「ど、どうしたんだ、カリーナ……! 君は今、回復薬を作るのに忙しいのでは……!」

「疲れてしまったので、休憩しようと思って。それより彼女は誰ですか?」


 壁際に女性を追い詰めるように手をついていたヴィラデッヘ様は、私の問いかけに慌てたように彼女から一歩距離を取った。


「い、いや……彼女の目にゴミが入ったというから、見てあげていたんだ」

「……そうなのですね」


 でもさっき、可愛いとかなんとか言っていたような気がするけれど……あれは私の聞き間違いかしら?

 疑いの視線を女性に向けると、彼女は私と目を合わせずにお辞儀をしてそそくさと去っていった。


 なんか気になるわね……。


「それよりカリーナ、回復薬はできたのかい?」

「……そのことですが、ヴィラデッヘ様! 従者の方に言ってください! とても厳しい労働を強いられて、私はもうへとへとです!」


 さっきの女のことも気になるけれど、今はこっちのほうが大事。

 私からお願いすれば、きっと聞いてくれる。

 そう思ってヴィラデッヘ様を上目遣いで見上げたら、彼はひくりと口元を引きつらせた。


「しかしここ数日、急に回復薬の生産量が落ちているじゃないか。君の邪魔をしていたモカを追い出したというのに、一体どうしたんだ?」

「えっ、それは……あの子のせいで、無理がたたっているのです! ですから、少し休まないと――」

「カリーナ。僕も君に会えなくて寂しいよ。だが、モカがいなくなれば今のノルマをこなすことなど簡単だと言っていただろう? 早く終わらせて、ゆっくりお茶でもしよう」

「ええ……そうですね……」


 私の頭にそっと手を伸ばし、撫でるように頰へと滑らせていくヴィラデッヘ様。

 第一王子のレナード様ほどではないけれど、彼も見目麗しい王子様。キラキラと輝く金髪、そして宝石のような碧眼に見つめられて、思わず頷いてしまう。


 でもまさか、モカがあんな量を一人でこなしているとは思わなかった。昔、まだ私が一緒に回復薬を作っていた頃は、ここまでの量じゃなかったはず。


 知らない間に、あの子はとんでもなく成長していたというの……?


「ああ、それから。君が作った回復薬に、不良品が混ざっているとクレームが来たんだ」

「……え?」

「これまでのものに比べると、効果がとても弱いとか。今までそんな話は一度も聞いたことがなかったが……、まさかモカが仕込んでいった嫌がらせかな?」

「……そうかもしれないですね」

「まったく。あの女には困ったな」

「ふふ、そうですね……。あ、それでは私、仕事に戻りますので、これで失礼します」

「ああ、よろしく頼む。終わったらデートをしよう。待っているよ、可愛いカリーナ」

「はい、楽しみにしております……ふふふ……」


 貼り付けた笑みを浮べて、ヴィラデッヘ様の前から逃げるように辞した私。


 ……不良品? 何よ、それ。私が作った回復薬の効果に文句でもあるというの!? 私は真の聖女なのよ!?


 ……まさか、モカが作っていた回復薬のほうが上質なんてこと、あり得ないわ……!!

 だって、あの子はただのスペアだもの。真の聖女はこの私なんだから――!


 嫌な汗を感じながら、私は魔法部屋に戻って少し本気で回復薬作りを行った。



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