11.デートというわけではないけど
それから私とアレクシス様は、毎日一緒に食事をするようになった。アレクシス様が仕事で時間が押す日は、私が待っているようにした。
「――すまない、遅くなってしまった。こういう日は先に食べていていいんだぞ?」
「いいえ。私がアレクシス様と一緒に食べたかったので」
「……そうか、ありがとう」
団長職はとても忙しい。たぶん、食事の後もまた仕事に戻るんだと思う。
アレクシス様はもともと体力があるからか元気に見えるけど、働き過ぎで少し心配。
私が作った回復薬も、「いつかのために」と取ってあるみたいだし。
「今日の料理も、とても美味い」
「うふふ、ありがとうございます。今日はお肉と一緒に香草を入れて焼いてみました」
「なるほど……この香りはそれか」
アレクシス様は、私が少しだけ手伝った料理を、いつも美味しそうに食べてくれる。
私も、そんなアレクシス様が少しでも元気になってくれたらと思いながら、気持ちを込めて仕上げをさせてもらっている。
「外はこんがり焼けているのに、中はとてもやわらかく、ジューシーだな」
「火加減を途中で変えてみたのです」
「なるほど……。君は本当に料理が上手いんだな」
「いいえ。ただ皆さんと楽しく作っているだけです」
私は、アレクシス様が喜んでくれるお顔を見るのが好き。
だってアレクシス様は、やっぱり怖そうな見た目に反してすごく優しくて可愛らしい方なんだもの。
もっと、もっとアレクシス様の色んな表情が見てみたいわ。
「しかし、いつもこんなところに籠もってばかりいては退屈だろう? 今度街を案内しよう」
「まぁ、よろしいのですか?」
「ああ。俺が一緒に行くから、危険な目には遭わせない」
私が気にしたのはそういうことではないのだけど……。
驚いて声を上げた私に、真っ先にそう言ってくれるアレクシス様は、やっぱり優しい方だと思う。
「とても嬉しいです。ですが、アレクシス様はお忙しいのでは……?」
「一日くらい時間は取れる。もちろん、君が俺と出かけるのが嫌でなければだが」
「嫌なはずありません! ぜひ行きたいです!!」
「……そう、か」
そこだけは誤解のないよう身を乗り出す勢いで力強く答えると、アレクシス様の頰がほんのり赤く染まったように見えた。
……少し興奮し過ぎてしまったわね、淑女らしくなかったかもしれない。
でも、アレクシス様とお出かけできるなんて本当に嬉しい。最近は少しずつ話をする機会も増えてきたし、きっと楽しいデートになるわ。
……デート? いやいやいや、私ったら何を考えているのよ……!
これは別にデートというわけではないのに……!!
そう、アレクシス様はただ、この地を案内してくれようとしているだけ。私たちは本当の夫婦になるわけではないのだから、変な期待をしてはだめよ!
凜々しく、とても頼もしく見えるアレクシス様にちらりと視線を向けながら、私は一人静かに深呼吸をして心を落ち着けた。
……でも、話せば話すほど、アレクシス様がとても優しい方だとわかる。もっともっと、私はアレクシス様のことが知りたい――。
*
それから数日後。午前中に仕事を片付けたというアレクシス様と一緒に、街へ出かけることになった。
「アレクシス様、本当にご無理されていませんか?」
「無理などしていない」
二人で馬車に乗り込んだところで私がそう尋ねたのには、訳がある。
出かけ際、ノアさんが意味深に微笑みながら「あとは任せてゆっくりしてこいよ」と言っていたから。それを聞いたアレクシス様は、少し焦ったように「すぐに戻る!」と答えていた。
忙しいはずの団長様自ら街を案内してくれるなんて……。やっぱり、本当はお仕事が溜まっているのに無理をして予定を入れてくれたのではないかしら。
「本当に大丈夫だ。君は何も気にする必要はない」
「はい……」
私が不安そうな顔をしたら、アレクシス様にかえって気を遣わせてしまうわね。
こう言ってくださっているのだから、ここは素直に頷いて、街を少し見たらすぐに戻ればいいんだわ。
「お忙しいのに、お時間を作ってくださりありがとうございます」
「いや、俺も楽しみにしていた」
「え?」
「その……、街に行くのは俺も久しぶりなんだ。それに、時々様子を見に行くのも仕事の一環だしな」
「そうなのですね」
それを聞いて、少しほっとした。お仕事のついでに私を案内してくれるということだったのね。
けれどそれを言った後、なぜだかアレクシス様は「そうではないだろう……!」と独り言のように呟いて、顔を背けてしまった。
表情は窺えないけれど、耳が赤い気がする。
……どうしたのかしら?