第96話 姫さま、子分に勇者の武器を渡す
馬車で突っ込んだ先は、王宮でもこんなにピカピカしてないんじゃないかな? ってくらい、ピカピカの床と壁の場所だった。
『光よ、この世を照らし、私に道しるべを与えよ』
子分が魔術を唱えると、暗かった部屋が明るくなる。
馬車から降りて、辺りを見回した。
「おう、アダンとか言ったな。ここで待機しててくれないか? あと、馬車の向きを変えて、いつでも帰れるようにしといてくれ」
「はいっ!」
アニキがアダンに指示を飛ばすと、元気よく返事をした。
「結界の魔術をかけるから、安心して。誰かがやってきて攻撃されても、しばらくは保つと思う」
「プリエ様、ありがとうございます。僕も魔術は多少腕に覚えがありますので、迎撃出来ます。お馬さんにも立派な馬車にも、傷はつけさせません!」
一緒に御者台に乗ってずっと馬の話ばっかりしてたコイツは、すごく馬が好きらしい。
「馬は、いっぱい攻撃を受けたら死んじゃうけど、多少なら身代わり人形があるから平気だぞ!」
あたしはそう言うと、子分たちにマジックバッグを渡した。
「お前らの分だ! さっき慌てて作ったから、ちょっとしかないけど、人形の数くらいなら攻撃を受けても平気だからな! アニキのはがんばってたくさん作ったから、励めよ!」
アニキがプッと笑う。
イディオはハラハラした目でアニキを見た。
「……アニキ。こんなんでも、王族です、姫さまです」
「いや悪い。では、ありがたく拝受いたします」
アニキが受け取った。
「んーと、アルジャンが、アニキはなんでも使えるって言ったけど、なんか武器いるか?」
アニキが考え込んだ。
「……大剣以外は取り戻したからな……。大剣はあるのか?」
あたしは首をかしげる。
「……あったっけな……」
アイテムボックスをゴソゴソ探ったら、出てきた!
「うん! あったぞ! 〝破壊の大剣〟だ! めっちゃ重いから気をつけ……あわわ」
取り出そうとしたら重くて持てなかった。
そしたらアニキが素早くつかんで引き出す。
「おー! すげーのが出てきたな! こりゃ、前に持ってたのよか数段上だぞ! アレだってそうとう高かったんだけどな」
持てるみたいだから、オッケーだ。
あたしは腰に手を当ててウンウンとうなずく。
「パシアン、……いえ、パシアン姫。もしよければ、私……いや、俺にも魔術師用の杖をいただけませんか? 持ってはいるのですが、本来剣士として戦うつもりで、予備の杖しか持ってないのです。……あと、プリエにもお願いします。プリエは……恐らく、勇者の供の子孫かと思われるのですが……」
イディオが恐る恐る、って感じで尋ねてきた。
「ん? わかった! ……そっか、お前は魔術師だったのか。剣を鍛えてもしょーがなかったんだな」
剣士だと思って、棒で叩いちゃった。
「えーと、ちょっと待て……あ、あった。まずはプリエだ。勇者の供が使ってた〝快癒の杖〟だぞ」
なんか、光魔術の効果を倍増させるとか、絵本が言ってたような言ってなかったような。
「え!? ホントにあるの!? ……え、ええと、謹んで拝受いたします……」
プリエがプルプルと小刻みに震えながら杖を受け取った。
「あとは……イディオか。うーん、普通のしかないぞ」
「いや、普通のでいいですから。今ある予備の杖だと心許ないというか、実戦向きではないというか」
うーん。でも、せっかくだから……あ。
「いいのがあった! これだ!」
イディオの頭に被せた。
「ちょ! なんだコレは!?」
「それはすごいぞ! 無詠唱で魔術が飛ばせるんだぞ!」
「……うわ、キモ」
イディオが引きつったプリエの顔を見て、慌てて被せた勇者の武器を取ろうとした。
「ちょ! 脱げない!?」
「なんで取ろうとするんだ!? ……アルジャンに被せたかったんだけど、アルジャンは魔術が使えないから諦めたんだ。イディオが魔術師だとは知らなくて、剣術を鍛えようとして悪かったな。お詫びにそれを貸し与えてやる。勇者の武器の一つ、〝叫ぶ兜〟だ」
あたしは謝った。ちゃんと謝れてえらいですね、ってアルジャンならほめてくれる。
「〝叫ぶ兜〟!? つまり、口が付いてるってことか!?」
「……口だけじゃないわね。目があっちこっちについてて……うわ、キモ! ギョロギョロ動くのよ……。しかも口がデカい。そうとうキモいわ。私に近づかないでね」
プリエが武器の解説をした。
「パシアン!? もしかして婚約破棄した腹いせか!?」
なぜかイディオが泣きそうなんだけど。
「? なんだそれは。お詫びって言っただろ。使いたい魔術を思い浮かべれば、その武器が判断して魔術を吐いてくれるのだ! 便利だろ!」
エヘン。あたしが威張ると、イディオは膝から崩れた。
アニキがイディオに諭すように話す。
「……まぁ、いいじゃねぇか。お前が望んだんだ。実際、これでかなり強力になっただろ? Bランクの魔術師くらいにはなったんじゃねぇか? 威力は無くても無詠唱ならAに近いぞ」
「頭から魔術を放つ魔術師なんていませんよね!?」
「「気にするな!」」
あたしとアニキは声をそろえて言い、同時に親指を突き出した。




