第94話 護衛騎士、また変なのと知り合う
転がり込んだこの部屋を調べた結果。
「よし、壊そう」
って決意した。
この部屋自体が、なんらかの魔道具である感じだ。
壁のあちこちに管が這っていて、おまけに壁や地面のあちこちが光っている。
明らかに人為的。
おまけに勇者の浄化の玉が尽きかけていると判明したので、こちら側から片っ端に破壊していこうと俺は決めた。
最悪……元の場所に戻れなくなるかもしれないが、仕方がない。これでも俺は勇者の供に選ばれたし、姫さまに妹を託しているから大丈夫だろ。姫さまはそういうところ、きちんとやってくれるからね。
「姫さまの話だと確か、『魔王』って呼ばれてる出入り口はそうそう爆破出来ないっぽいよな。でも、中をぶっ壊して、実験出来なくして、『魔王』から出ればしばらくは保つだろ。最善は『魔王』の出入り口を作ってる何かと、その装置をぶっ壊せばいいんだけど……俺、そういうのわかんねーしなぁ。バジルならわかりそうな気がするけど」
自分内着地をしつつ、そっとヒュドラを呼んだ。
「……いいか、絶対に鳴くなよ? フリじゃないからな? でもって、静か~に壊す手伝いをしてほしいんだけど」
「…………(シャ)」
口パクをして返事をするヒュドラ。
こういうとき便利、って思っちゃったよ。
俺は、勇者の剣を抜いた。
勇者の剣なら、静か~に斬れるだろ。何せ勇者の剣だから!
俺は、ヒュドラが『ここを斬れ』と指し示すところの前に立ち、息を整える。
「……ふっ」
息を短く吐きつつ、その場所を斬った。
とたんに真っ暗になった。
「成功か? ……とりあえず逃げよう」
「シャ!」
ヒュドラが急に道案内してきたので、その方向に逃げることにした。
しばらく歩き回る。
無人の部屋に入っては、怪しそうならヒュドラの指し示す場所を斬り、すぐに出てまた潜んだ。
そうして歩き回っていると、めちゃくちゃに壊れた部屋があった。
「あ。……ここってもしかして」
たぶん、魔王種って呼ばれる出入り口の一つだな。
投げ込まれた浄化の珠……いや爆発物だろ、が、ここで爆発したようだ。
「シャ!」
ヒュドラが何かを指し示す。
「ん? これがどうかしたか?」
「シャ!」
……もしかして、これが出入り口になる装置か?
「これって、もしかして……」
『それが、魔王種だ』
急に声が聴こえてきたので俺は振り向きざま抜剣、横になぎ払った。
手応え無し。
「チッ!」
舌打ちしながら飛びすさったが、誰もいない。
「…………?」
油断なく構えつつあちこちに視線を送る。
――と。
そこには、姫さまがいつも読んでいた絵本がポツンと落ちていた。
「……これは……」
『落ち着け。私は初代勇者だ』
絵本がしゃべったぁああ!!!
俺は目が飛び出るほど驚いた。
こんなに驚いたことはないってくらい、驚いた。
『会話するのは初めてだな、勇者の供よ』
「……は、はぁ」
え、嘘でしょ? 誰か他の人がしゃべってんでしょ? 俺を油断させようとしてるでしょ?
俺はせわしなく目を動かし気配を探る。
『落ち着け。パシアン姫が私をいつも携えているのを知っているだろう。彼女と会話をして、知識を授けていたのは私だ』
「ひえぇ……」
とんでもない事実が発覚した。
姫さまは、絵本に教育されていたのか。
……でも、なんでここにあるんだ?
『お前が魔王種に呑み込まれ、パシアン姫が錯乱し、私をここへ放り込んだ。本来なら私は勇者としか会話出来ないのだが、ここが特殊な環境のせいか、勇者の供であるお前とも会話出来るようになった』
……そっかぁ。姫さま、そりゃあ言えないよな。
勇者としか会話出来ない絵本から知識を得て魔王討伐の旅に出ています、入れ知恵はすべて絵本です、とかさあ!
生きて会えたら優しくしてあげようという気持ちになった俺は、剣を鞘に戻して絵本を拾い上げて、ペラペラめくった。
「…………」
絵本の中身は、白紙だった。
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