第93話 姫さま、供と一緒に旅立つ
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アニキは、
「よし! よく言った! さすが勇者だな!」
って喜んでたけど、他の奴らは顔が引きつった。
「え……異界に行くの? 私も?」
「……パシアン姫が行くなら、ついていくしかないだろう」
「……マジかぁ。でも、素材が採れるなら、まぁ、行ってもいいかな……帰ってこれればの話だけど」
「ぼ、僕は行きます! 勇者の供の子孫ですから!」
「……僕はどうすれば? なんか僕、巻き込まれてるんですけど……」
あたしはくるっと振り返り、根性無しの連中を指さした。
「軟弱者はおいてく! 囚われのアルジャンを助けに行く覚悟のある、勇敢な者だけついてこい!」
バジルがため息をついた。
「救いに行くのがむさい男ってのが萎えるよね。でも約束だし、姫さまを守らないと! かわいこちゃんは宝!」
「マスター、私は遠慮したいんですけど」
「いや、もっとも君が行かないとダメでしょーが! 勇者の武具でしょ君!?」
バジルと怠け者の魔導人形が言い合ってると、リノールが前のめりで参加表明してきた。
「姫さまは、僕が守ります!」
イディオと子分のプリエが顔を見合わせ、さらにフードをかぶった男に声をかけた。
「アダン、ここまでありがと」
「……お前は、俺たちが御者として雇っただけだ。俺たちは勇者の供として、パシアン姫についていく。お前は馬車に乗り、騎士団に詳細を話してこい。そこから王家に伝わるだろう」
アダンと呼ばれたフードの男は、オロオロした挙げ句、
「え、ええと、さっきそこで見た立派なお馬さんの馬車って、姫さまのですか?」
って訊いてきた。
「そうだ! ……アレにはいろいろ積んであるから出来れば一緒に異界に行きたかったけど、馭者がいないからおいていくしかない」
あたしがそう答えたら、アダンが顔を輝かせて言った。
「じゃあ僕が運びますよ! あんな立派なお馬さん、僕、初めて見ました!」
……よくわからないけど、馬車で突っ込んでくれるらしい。
あたしは首を傾げながら言った。
「そうなのか? じゃあ、馬車で突っ込むか」
イディオとプリエがドン引きした顔をしていた。
「馬好き、ここに極まれり……」
「御者出来るからって異界まで行くのか。そうなのか」
あたしは、アルジャンを助けられるかもしれないって希望が出てきたので御者台に飛び乗った。
「早くみんな乗れ!」
叫んだら、みんなゾロゾロ乗ってきた。
「うわぁ、中、ファンシー!」
「人形だらけだな……」
「御者台が豪華すぎるんですけど」
「快適ですね……。寝るのに最適です」
「あ、姫さま。俺の勇者の道具である魔導車を連結するからよろしく~」
「お、お邪魔しまーす」
最後にアニキが声をかけてきた。
「よーし、全員乗ったぞ! 出発してくれ!」
アダンが鼻息荒く、手綱をふるった。
「出発します!」
馬たちは、とくに躊躇いもなく魔王種の渦に突っ込んでいった。
*
「……ってぇ〜」
俺は異形と取っ組み合い、ぶん殴り、蹴りとばし、体当たりして転がり回り、どうにか倒した魔王の眷属を見た。
うん、死んでるな。
俺も傷だらけになったけど。
ポーションを出して一気飲みし、瓶を床に捨てる。
「さてと……。ここはどこかな?」
最初に着いた地点からだいぶ離れたな。部屋から飛び出してどっか別の部屋に転がり込んじまったし。
魔王種とやらは、やっぱりというか、異界の出入り口だった。
……姫さまのやってる『浄化』ってさ、向こうに爆発物を投げつけて、物理的にぶっ壊しているよね?
俺、姫さまに突っ込もうかと何度も思ったんだけど、たぶん姫さまはそう言い伝えられているからそのまま信じているだけでわかってないから、言っても無駄かなって黙ってたんだよな。
ここは、異様に人工的な造りをしている。
壁や床は、何かの一枚板で出来ているようで、ツルリとした感触だ。
俺は、歩き出そうとしてふと振り返り、死んだ魔王の眷属……ロランスとサロメのなれの果てを見た。
隅っこに運び、白い布をかける。
「……ティファニーの分も含めて仇は討ってやる」
まぁ、ティファニーは魔王の眷属に殺られたんじゃないけどな……。
さっきの出入り口を見つければ帰るのは簡単だと思うが……。
「どうせなら少し探るか?」
絶対に自然発生じゃないと言い切れる。
攫われたロランスとサロメが魔王の眷属に作り替えられたんだ。ここにいる連中がやったに決まってる!
――俺だって、かつて親しく話した奴らをこの手で殺したくなんてなかったよ!!
この怒りを、作った奴にぶつけよう。
異形とともに暴れ回っていたのでいまさらだけど、そっと周囲の様子をうかがう。
まぁ、当たり前だけど誰もいなさげ。うーむ。
とりあえず異形が出たらガンガン斬り捨てる方針で行こう。
幸いにも、姫さまからもらった身代わり人形はまだある。つーか、いつの間にか姫さまが作って俺の鞄に突っ込んでいたんだよ。
なんつーか、そういうかわいいトコがあるよね、姫さまって。
口ではツンケンしてるし強がってるわりに、変なトコで心配性っていうか。
次は、そういう姫さまをわかってくれる子息と婚約出来ますようにと祈りつつ、気配を殺して調べた。




