第92話 姫さま、ようやく供と合流する
「……どうした嬢ちゃん」
声をかけられてビックリした。
振り向いたら、アルジャンみたいな男が、私を見つめていた。
しゃくりあげながら、魔王種を指さして答えた。
「……アルジャンが、あの中に呑まれちゃったの。あたしをかばって、食べられちゃったの」
男はビックリした顔をして、魔王種と私を見比べた。
「嬢ちゃん、ひょっとして〝姫さま〟か?」
そう聞かれたのでうなずいた。
男はあたしと渦をもう一回交互に見て、眉根を寄せた。
「……一足遅かった、って感じか……。参ったな」
頭をかくしぐさも、なんかアルジャンに似てる。
「誰?」
あたしが聞いたら、男はしゃがんで言った。
「俺は……アニキって呼ばれてる冒険者だ。アルジャンの師匠だよ」
「アルジャンの師匠!?」
ビックリして涙が引っ込んだ。
聞いたことない……ん? あるような、ないような?
「……そういえば、アルジャンが、お供にしたい冒険者がいるって言ってた」
「そうだ。それが俺だ」
たぶんアルジャンよりは強くないけど、アルジャンが仲間にしたいっていうからきっと強いんだろう。
「俺も仲間を魔王の手下に殺られて、仇討ちがてら姫さまと合流しようってしてたんだけどな……。そっか、アルジャンまでもが殺られたか……」
アニキが俯いた。
「……アニキ! ここにいたんですか……ってパシアン!?」
誰かが近寄ってきたと思ったらイディオだった。
なんか、前会ったときより大きくなってるし、弱そうだったのがほんのちょっとだけ強くなってる感じがする。
「このバカ! 不敬罪! パシアン姫でしょうが!」
さらにその後ろからイディオの子分がやってきてイディオを蹴った。
「あ! 姫さま、ちーっす!」
「姫さま!? どうしたんですか!?」
他にも、勇者の供の子孫がくっついてきた。
最後に、フードをかぶっておどおどした子と、魔導人形がゾロゾロやってくる。
アニキは布きれを取り出すと、私の顔を拭って鼻をチーンしてくれた。
「……ハァ。参った、最悪の事態だな。アルジャンが、この渦に呑まれまったらしい」
「「「えぇ!?」」」
「マジかよ!? あの強ぇ兄ちゃんが!? 嘘だろ!?」
バジルが叫んだ。
その後全員、静まった。
あたしはまた悲しくなってきて、泣き出した。
アニキが慌ててあやしてくれる。
「どうどう。……悪い、何が起きたのか教えてくれるか?」
尋ねられたので、あたしはたどたどしくしゃべった。
魔王の封印に来たら、魔王種と魔王の眷属が立ち塞がってて、アルジャンが戦った。
アルジャンに言われて魔王種を浄化しようとしたら、魔王の眷属があたしに向かってきたので、アルジャンが止めたけど、魔王種に呑み込まれてしまったと。
「…………」
アニキは考え込んでしまう。
他の連中も黙ったままだ。
アニキは急に顔を上げると、
「イディオ、どう思う?」
って尋ねた。
イディオも考え込んでいたけど、顔を上げてアニキを見た。
「……聞いた話と、これを見た限りの判断ですが……。魔王種……が何を指すのかわかりませんけど、少なくとも生き物じゃないですよね。異界との連絡通路じゃないですか?」
って言いだした。
アニキがうなずく。
「俺も聞いててそう思った。魔王っつーから、てっきりものすげぇ強ぇ魔物かと思ったら、異界への開けっ放しのドアだった、って感じだな。封印、っつーのはつまり、ドアを閉じる作業か。……でもって、もしかして魔物は異界の動物か? ついでに言うなら魔王の眷属って言われてる奴が向こうの住人じゃねーのか? 住人っつーより戦士だろうけどな」
あたしはボーッと聞いていた。
……そんな話を絵本はしてなかったけど。
でも、もういい。
あの絵本は、嘘ばっかり言ってるもん。知らないこともたくさんあって、聞いても答えないし、同じ言葉を繰り返すし。生き物じゃない変なのを信用したあたしがバカだったんだ。
あたしは、アニキたちの言葉の方を信じたい。
だって。
「……じゃあ、アルジャンは、異界のドアに飛び込んだだけだから、向こうで生きてる?」
「そうなるな」
アニキがうなずいたので、あたしはだんだん元気になってきた。
あたしを見たアニキが笑う。
「お? 姫さま、ちょっと元気が出たか?」
「うん! アルジャンを救いに行く! あたし、アルジャンのとこに行くよ!」
次から新章です!
いよいよ姫さまが魔王種に飛び込みます!
……なんですが、ちょっといろいろ間に合ってなくて、毎日投稿が無理になりました。
不定期更新になります、が、できるだけ間を置かないようにします。
そして、懲りずに宣伝です!
『姫さまの大冒険』続刊のために買ってください!
書籍版はweb版からの完全版で、webで抜けのある部分を補完しております。
当然2巻も抜けを補った(特にこれから先の部分は)完全ストーリーとなりますので、ぜひともご購入よろしくお願いします!




