第87話 護衛騎士、家族について語る
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俺と姫さまは黙りこくったまま馬車で進んだ。
俺は、考えまいとしているが、どうしても考えてしまう。
『いいカモ』という表現は、つまりはギルドマスターの欲望や利益のために俺を食いものにしていた、ということだ。
アニキたちがいかにも高そうな武器や防具を身につけていたのは、パーティで頭割りしたとしてもそれだけの稼ぎがあったのだ。
……正直、各ギルドをまわってギルドマスターをぶん殴りたい。
その金があったら、妹は……!
「……アルジャン」
顔色をうかがうような姫さまの声にハッと我に返った。
「……すみません。考え事をしていました」
姫さまは俺を上目づかいで見ている。
思わず笑ってしまう。
「姫さまは何も悪くありません。ギルドマスターが悪いんです。……どうやら俺、カモられていたらしく、冒険者時代に安い依頼料で働かされていたようなんですよ」
姫さまが、小さくうなずく。
「……私が聞いた話だと、Aランクの依頼は、騎士団の給料よりもはるかに高いぞ? いっつもアルジャンが『お金がない』って言ってたから、変だと思ってた」
……そうか。姫さまも変だと思ってたのか。俺はぜんぜん気付かなかった。
巧妙に隠されていたか、俺がソロでずっとやっていて、周りから話を聞かなかったからか……。
そういやアニキも、俺が「金がない」って言うと変な顔をしていたよな。
俺に気を遣ってツッコまなかったんだろうけど……。
俺は息を吐いて肩の力を抜き、姫さまに語った。
「……以前、俺には妹がいて、無理のできない体だ、って伝えましたよね」
姫さまがうなずく。
「俺の両親は、俺と妹が幼少の頃に亡くなりました。商人だったのですが、妹が難病を患っていて、大金を得るために無理して危険地帯にある商品を仕入れようとし、魔物にやられたのです」
俺は空を見上げた。
……両親の訃報を聞いたときも、こんなふうに晴れていた。
「俺は妹の薬代を得るため、冒険者になりました。適性があったのと、アニキと出会っていろいろアドバイスを受けたこともあり、すぐにランクは上がっていきました」
当時を思い出し、ちょっと笑う。
「……アニキは何度も『一緒にパーティを組もう』と言ってくれました。俺は端から見ても危なっかしかったみたいで……。でも、必死だったんです。妹の薬代は高く、症状を緩和させることしかできない。治るのは奇跡のような自然治癒か、稀少な薬を飲ませるか。ソロでやるしかなかったんです。じゃなけりゃ、頭割りになってしまう。稼ぎが六分の一になるなんて、症状を緩和させる薬ですら買えない。そう思って断ってました。……今思えば、受けたほうが儲かりましたね。俺は相場を知らず、ギルドマスターから直接『お前にうってつけの仕事がある』と言われて無茶な依頼を引き受け、儲けた気でいたんですから」
なんてバカな男だったんだろう。一度でも誰かと組めばわかったのに。
当時はどんな依頼でもやった。
金を稼ぎたいから。数をこなしていけばいいと思ってた。
逆に、それで目を付けられて、カモにされたんだ。
……俺の妹が、難病を患っていると知っているのに……!
俺は怒りのあまり、手綱を強く握りしめる。
すると、姫さまがソロソロと手を伸ばし俺の手をツンツンとつつくので握った拳を緩める。
「……ようやく『材料さえ揃えれば調合してやる』という錬金術師が現れて、俺は材料となる稀少魔物を狩り、揃えて錬金術師に渡し、調合してもらって妹は治りました。ただ、長く患っていたので今も無理はできない体です。……もしもギルドマスターの連中が俺を騙さなければもっと早く治っていて、元気に動けるようになっていたかもしれないのに……! ……そう思うと、腹立たしいんです」
「……そっか……」
姫さまはちょっと考え込むと、顔を上げて俺に告げた。
「いまさらだけど、処罰しよう。でも、まずは魔王の封印からだ。封印したら、アルジャン、お前は勇者の供として、貴族よりも偉くなる。ギルドマスターなんて目じゃないぞ! ムカつくなら、ぶっ飛ばしていいからな! 思いっきりやってこい!」
姫さまが拳をブンブン振り回すので笑ってしまった。
笑う俺を見て、姫さまがキョトンとする。
「……いえ、ありがとうございます。そうですね、魔王を封印し、凱旋して、ギルドマスターの悪行をさらして、ついでにぶん殴りましょう。たぶん、カモられてたのは俺だけじゃないと思います。結託してやっていたんですから組織ぐるみの犯行ですもんね。白日の下にさらしましょう!」
「おー!」
姫さまが、元気よく拳を突き上げた。




