第80話 プリエ・ルミエールの旅~三人の決意編4
私はテーブルに突っ伏した。
「やっぱり私、行かない! 役立たずだもん! 勇者の供の子孫なんかじゃないもんー!」
青年はオロオロした声で慰めてくれる。
「え、え? ――いや、一緒に行こうよ! かわい子ちゃんがいた方が、旅に潤いがあるもん! 集まるのがヤロウばっかりじゃ、やる気が激減するし、姫さまだって、かわい子ちゃんがいた方が目の保養になるって!」
……姫さまは、ヤロウばっかりでも気にしない気がするわぁ。
イディオが暗い声で私に向かって言った。
「……むしろお前は行く価値があるだろう。そもそもお前は勇者の供の子孫だろう? 光魔術の中でも稀少な回復魔術の遣い手の現れる一族が、勇者の供の子孫でないわけがない」
あ。そうだった。
顔を上げた。
「……そっか。私、そういえばそうだった」
確かに、そういう魔術が使えるって、いかにも勇者の供よねー。
一族には、まったくもって勇者の供だったとか言い伝えられてないけど!
復活したけど、今度はイディオが暗い。
まぁ、A級冒険者と勇者の供の子孫とが並び立っているからね。存在意義を自問するわよね。
……と、アニキが真剣な顔でイディオに問いかけた。
「イディオ、お前、確か魔術が使えるよな?」
イディオは急に振られてキョトンとしたまま答えた。
「え? ……はい、使えますが」
「なら、今後は魔術を使え。俺もアルジャンも魔術が使えねぇ。姫さまは勇者って前に幼すぎるから戦力には数えねぇ。プリエの魔術は攻撃じゃねぇし、アルジャンもいざという時に姫さまを回復させるための切り札にしたいって考えてるだろう。俺もそれに賛成だ。そこの男も、錬金術師ってことは攻撃魔術系統じゃねぇってこった。つまりは、攻撃魔術を使えるのがお前しかいねぇんだよ」
全員がイディオを見た。
「魔王の眷属には、物理無効と魔術無効がいる。俺とアルジャン、魔術無効なら大当たりだが……アルジャンの手紙にはこう書いてあった。『物理無効は俺だけじゃ絶対に勝てない、何度か死ぬレベルの強さだ』と。『勇者の剣を何度も叩きつけて、ようやく削れるが、その異形は回復魔術も使う』んだとよ」
私は息を呑む。
え……護衛騎士の人、そんなのと戦ってどうやって勝ったの?
「……あー。そうなのか。死角から攻撃したら効果あったみたい。その後、俺と姫さまは撤退して待ち伏せしてたから、あの護衛騎士さんがどうやって勝ったのかわかんないんだよな」
と、青年が言った。
えぇえ。
あの護衛騎士の人、マジで強いんだ!
「すごい……」
私がつぶやくと、アニキがうなずいた。
「だから、アルジャンの本来の目当ては、俺じゃなくて俺の仲間だったはずだ。魔術の使えねぇパワータイプが二人いようが、物理無効にゃ効きやしねぇからな。だが、もう奴らはいねぇんだ。ならイディオ、お前が奴らの代わりになれ。これからは剣じゃなくて魔術で敵を倒すようにしろ」
イディオは目を見開いてアニキを見ていた。
アニキの重い言葉を嚙みしめている。
そして、顔を引き締めてうなずいた。
「わかりました。これからは魔術を極めます」
アニキもうなずく。
「お前が魔術師として入るとパーティとしてのバランスがよくなる。欲を言えば、斥候が欲しいが……」
アニキがふと思い出したように尋ねてきた。
「プリエ、お前、回復魔術が使えるよな? どのくらいの怪我まで治せる?」
「え? ……たぶん、瀕死の重傷でもいけます。だけど、その後気絶します」
私が答えたら、青年が驚いていた。
「えっ、すごいじゃん! かわいい上にすごいなんて、欠点ナシだね!」
とか言ってきたんですが……。
「いえ、超貧乏っていう重大な欠点があります」
大真面目な顔で言った。
アニキの頼みは、生き残った斥候を治してほしい、ということだった。
「奴は、魔術も使えるオールラウンダーだからな。器用貧乏っつーのかもしんねぇが、どれも二流くらいの実力はある」
うわー、さすがアニキの仲間だわ。
私はアニキの言葉にうなずいた。
「任せてください。……ただし、傷の程度によっては気絶しますので、支えてくださいね!」
アニキに詰め寄る。
「おう。……でも、イディオに任せたほうがよくねぇか?」
冷やかすようにアニキが言ってイディオを見たので、私はちゃんと話すことにした。
「ソイツ、姫さまの元婚約者で、こともあろうに公衆の面前で姫さまに婚約破棄を突きつけたんですよ。さらに、まるで私がイディオを好きで、そう仕向けたみたいに言いがかりを付けて、つけ回してきたんです。私は単に『姫さまのいる離宮に私を連れて行くな』って言っただけなのに!」
アニキが呆れた顔でイディオを見た。
イディオは顔を真っ赤にして縮こまっている。
「……お前……。バカじゃねぇの?」
「……アニキのおっしゃる通りです……」
アニキの呆れたような声を、イディオは肯定した。
「と、いうわけでアニキさん、よろしくお願いしまーす!」
私は笑顔でアニキに向かって頭を下げた。
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