第100話 護衛騎士、部屋の正体がわかる
男は、廊下を何度か曲がると、突き当たりにある部屋に入った。
「明らかに、あそこだけドアが違うな」
俺はつぶやくとそっとドアを開けた。
あちこち見て、なんとなくこの建物の性質が分かってきた。
ここ、何かの研究所……あるいは実験場だ。
ここが異界かどうかわからない。だけど、あの魔王種という名の出入り口とつながっている場所だ。
部屋には檻があり、よくわからない動物が閉じ込められていたり、大きな水槽らしきものに動物が漬けられていたりする。
紙が散乱していて、薬棚もある。
「もしかして、魔物ってここの実験動物か……? そんでもって、とうとう人間に手を出して、出来たのが魔王の眷属ってか……?」
でもって、俺たちの国に廃棄してんじゃねーか? ついでに攫ってきてもらえりゃ、実験台も得られるし、一挙に両得できるもんな! クソ野郎が!!
魔王の正体がとんでもねーマッドサイエンティストのゴミ排出口だという事実に憮然とした。
男はさらに奥の部屋に行ったようだ。
目くらましの札は、姿だけではなく音も匂いも消すってのは、嗅覚と聴覚の鋭いワーグですら至近距離でも気づかなかったというお墨付きなので、遠慮なくズカズカと入り、奥の部屋へ続く扉を開けた。
「よし、殺そう」
中を見て決意を呟いたら、絵本にツッコまれた。
『情報を聞き出すのだろう?』
「会話が成り立つとは思えない」
俺は絵本に言葉を返した。
――檻に、人間が閉じ込められていた。エルフもいるな。
生きているのだろうが正気を失っているようで、虚空を見つめて呆けている。
椅子に縛りつけられ座らされている人間は、チューブがあちこちについていて、赤い管……恐らく血液が抜き取られ、土色にカビが生えたような色をした液体を流し込まれているようだ。
他に、よくわからないがかなり大きな魔道具がある。あれが異形を作る装置のようだ。
「クソッ! もっと強いのを作らないとダメだ! だが、今ある素体はどれも弱すぎる……! アイツらをどうにかして捕まえないと……そうだ! ガスを流そう! 弱ったところを捕まえればいい!」
と、付けていた男が叫んだのを聞いて、絵本に伝えた。
「大至急、姫さまをここまで呼んでくれ。俺はコイツを殺す。施設ごと破壊すりゃ、魔王は消えるだろ」
『わかった。……怒りで冷静さを失うなよ。慎重にやれ』
フッと、絵本が懐から消えた。
すげーな。転移できるのか。
「さてと」
俺は勇者の剣を抜いた。
すべて破壊すれば、あっちにある魔王も消えるだろ。
帰り道がどうなるかだが……せめて、姫さまだけでも帰したい。
ま、とりあえずコイツを殺してから考えるか。
俺は剣を構えて男に近寄る。
ガシャーン!
いきなり頭上から何かが降ってきたので飛びすさった。
男も驚いたようにこちらを振り向いた。
俺と男の間に、強固な結界のような壁が立ちふさがった。
……いきなりなんだ?
「急にどうして防壁が……? …………!? まさか、誰かいるのか!?」
男が慌てだす。
どうやら防壁とやらが俺の侵入を看破したらしい。めんどうな……。
「……フッ!」
勇者の剣で思いきり斬りつけた。
ガキィン!
派手な音がするが、切れない。
いや、ちょっとは削れたかな?
……しまった、絵本に魔力を注入してもらえばよかった。
ホント、冷静さを欠くのってよくないね。
男は脅えている。
自分は何人も、いや何十人も殺したくせに、殺されるのは怖いのか。
「……お前が異形になっとけや!!」
俺はガンガン勇者の剣を防壁に叩きつけ始めた。
「ヒィイイィ! な、なんだよ!? この防壁はちょっとやそっとじゃ壊れないから無駄だぞ! だから、やめろ……やめろぉお!」
「うるせぇボケッ!」
俺が見えてるのか見えてないのかわからんが、ガンガン叩く。
うん、削れてきているな。よしよし。
男は慌てて何かを操作し……縛られている人間を装置に押し込み始めた。
「く……こんな中途半端な状態だと、制御できないのに……」
「制御できねーならやめろ! むしろお前が入っとけ!」
怒鳴りつつ、剣を叩きつけ続ける。
俺を認識できないみたいで、それがより恐怖なのだろう。
必死で操作している。
だが、もうちょいで壊れるんだよなぁ!
「よ、よし、開発中のアレも使ってやる!」
……なんか不穏な言葉が飛び出してきたぞ。
早いとこ破壊して奴を殺そう。
いったんやめる。
男が振り返った。
「……音がやんだ?」
俺は溜めて……。
「……ゥラァアアア!!」
思いっきり叩きつけた。
ガシャアァン!
「ヒィイイイ!」
よし、砕けた。
……さすがに手がしびれた。
俺はマジックバッグからポーションを出して飲む。
そして、手を握ったり開いたりを繰り返して確かめる。
「うん、ま、いいだろ」
嘘です。
ちょっとじゃなくて手のひらと腕にダメージきました。
ポーション飲んでもまだ残ってます。
やっぱり勇者じゃないからかなぁ。勇者の剣って、単に硬い剣以上のものでも以下のものでもないんだよね。
その前に俺、魔力がないんだけどね!
「さて、殺そう」
男に近づくと……。
男がさらに奥へ逃げていく。
逃げたって無駄なのに。
絶対殺す。奴の仲間も殺す。
なんであれ、どんな理由であれ、奴は世界の害悪だから。
情報? 知ったことか!
ぶっ潰すのが最善だ!




