手を伸ばせばいつも、彼がいると思っていた。
私は、俯きながら玄関のドアをあける。
―――おはよう。···そう聞こえて、私は顔を上げる。
しかし、そこには、誰もいなかった。
私は虚しくなった。
(そうだよ、アイツは、···もういないんだ。)
そんな気持ちを抱えながら、私は向かいの家を見上げる。
···私には、属に言う幼馴染という存在がいた。
彼の名は、星野颯太。同い年だっだ。
保育園からの付き合いで、小中高すべてが同じだった。
何をするのも、何処へ行くも、いつも彼は、私の側にいてくれた。
悲しい時、辛いかった時、気の弱かった彼は、いつもおどおどしながらも、私を慰めてくれた。
ショタでは、ない。ただ、彼は優柔不断だった。
いつも、「これで合っているのだろうか?」
「これをして、大丈夫なのだろうか?」
と、迷っていた。
私はそんな彼の背中を押してあげていた。
「それであってるよ。」
「それはして、大丈夫だよ。」、と。
彼はいつも背中を押している、私の側にいてくれた。
しかし、彼が私より前に行くことは、なかった。
だから私は、後ろを向き、手を伸ばし、彼の手を握り、いつも、私が先導していた。
私は小さな時からきっと、「彼が私より前に来ることは、ないだろう。」と、心の片隅に思っていた。
···そう思っていた。現にあの時まで、彼が前に来ることなどなかったのだから。
高校に着く。
ホームルームが始まっても、授業が始まっても、隣の席に人が座ることは、なかった。
「バイバイ。」
友人に手を振り、一人、帰路に付く。
前は、一人じゃなかったが、周りを見ても誰もいなかった。
あるのは、夕日に照らされて出来た、一人悲しく立ち尽くしている、影だった。
家に帰るといつもどうり、母がいた。
私はそれだけで、安心する。
「ただいま。」
「おかえり。」
「···どうしたの?」
「いや、···明日のことなんだけど、あなたも、行くわよね?」
「もちろん、いくよ。」
「なら、今晩の間に、準備しときなさいよ。」
「はーい。」
私は部屋に入るや否や、ベッドに倒れた。
(もう、明日なのか···。)
私はそのまま、眠りに落ちる。
目を開けると、私は家の前に立っていた。
夢なのだろう。
私はすぐに思った。
なぜなら、目の前に、いないはずの彼が、幼馴染の星野颯太が、そこにいたからだ。
彼は私の方を向き、笑いながら囁く。
「自分を責める必要はないよ。あれは、僕の決断なのだから。」
その瞬間、私は目覚める。
いつもの天井、いつもの部屋。
何もかもが、いつもだった。
···ただ、一つをのぞいて。
私はいつものように準備をし、靴を履く。
私は、俯きながら玄関のドアをあける。