困った暴君
ナターリアの心温まる恋のお話を聞いて私は少し羨ましく思いました。
私は殿下との婚約のお話が無くなってもきっと政略結婚となりますもの。勿論良い関係を築けるならそれは忌避するものではありませんが、願うならば……。
なんて、現実逃避ですわね。
いくら目の前に逃避したい事があるからと言ってそんな事を考えていてはいけませんわ。
「おい、聞いているのか。」
「殿下、お話は理解致しましたが私共ではお力になれそうもありません。」
「これは命令だ。貴様らに拒否権は無い。」
授業の合間の休み時間、一年生Aクラスの教室に来られた殿下は私達に生徒会を手伝うようにと言われましたが一年生は役員、サポートに選ばない決まりがあります。会長をお勤めなのにご存知無いのでしょうか。
「学園の決まりには逆らう事は出来ません。心苦しく思いますが…。」
「そんなもの知らぬっ!命令だと言っている。」
さて、どの様にお帰りいただこうかしら……。
「何事です。騒がしい…。」
あら、まだ始業の鐘は鳴っておりませんが次の歴史の授業をして下さるクレール先生がお見えになりましたわ。
「クレール先生、実は殿下より生徒会のサポートをとお話をいただきまして…。」
「なるほど…。」
「貴様がさっさと頷けば済む話だ。」
「殿下、一年生は入学したばかりで学園内の事を把握出来ていない為、役員やサポートには選出しない決まりとなっております。」
「私が言っているのだ。そんなものより私の命令の方が重要だっ!」
「いいえ、学園内ではいくら王族であろうとも規則を破る事は容認できません。もし、そのような事をお考えならば殿下は会長職に相応しくないのではと学長に進言しなくてはなりません。」
「何だと?!」
「そうなれば学長より城へご連絡もあります。」
「ふんっ!母上から貴様らが叱責を受けるだけであろう。」
本気でそうお考えな事が恐ろしいですわ。殿下が立太子され継がれたら国が滅びかねません。
「殿下のお考えはよく理解致しました。もうすぐ授業が始まります。殿下のクラスは移動が必要なはず、そろそろ向かわれてはどうでしょうか。」
「ふんっ。貴重な時間を無駄にした。
」
その言葉は私達にも当てはまるものと思われますが……。とりあえず立ち去っていただけた事に安堵しましたわ。
「クレール先生、申し訳ございませんでした。」
「貴女が謝る必要はありません。授業が終わり次第学長の元に共に来てはもらいますが。さぁ、授業の準備を。」
「はい。かしこまりました。」
※
「なるほど、状況は理解しました。」
「このような事をご相談に上がり申し訳ございません。」
「ハルソン公爵令嬢に非はないでしょう。元々マルクレール殿下には頭を抱えておりましたからな。」
クレール先生と学園のお話では殿下は入学当初より色々な問題を起こしているようです。
入学時Sクラスでは無くCクラスになった事を始め机、椅子、昼食、教師の態度等初日から不満と怒鳴り散らし学園長や先生方はお辛い思いをされたとか。
それにも関わらず会長職に着いている理由は下手に別の方を会長にすれば難癖をつけ、その方に被害が及ぶから仕方なしにとのお話です。その代わり他の役員の方々には殿下を上手く抑えこめそうな方を選んであると、懸命な判断ですわ。
「このような方は前代未聞。城からは報告を続けよとしか…。」
「……きっと深いお考えがお有りになるのですわね。」
結局、今回の事も城には報告はされますが何か反応があるとは考え難いという事でした。しかし、このままというのはあまりにも……。
「学園長、ハーバイン・クランディッド様をご存知でしょうか。」
「ええ、優秀な成績で学園を卒業した彼の事を知らずしてこの席には座れません。」
「実は、私は彼と親交がありまして、何かあれば相談をと心強い言葉を頂いております。来年度は他国の王族の方が留学に来られると聞いておりますし、彼に王族特別警護として殿下と行動を共にしていただくようお願いしてはどうかと。」
「なるほど…。良い考えかも知れませんな。学園側としては問題ありません。城には私から話を通しましょう。」
「では、当人には私からお話をしまして結果をお持ちします。」
きっと彼は断らないと信じておりますが、やはり少し緊張しますわ。