格の違い
私は貴族とは名ばかりの貧乏な家が大嫌いだった。
私の産まれたレッドラン男爵家は領地は狭いし領民も少ない、中級商人も来ないような貧しい家。領民との距離は近く、両親の仲も悪くない。
貴族とか認識していなかった本当に小さな頃は優しい皆が大好きだった。
だけど、お母様が読み聴かせてくれるお姫様と王子様のお話への憧れもその頃持っていたと思う。
成長していくにつれて、私が貴族であると認識し始めたばかりの頃も皆が少し丁寧な言葉を使ってくれるのが嫌だと思うくらいには領民の皆が好きで、暮らしを良くしてあげたくて家にある本でたくさん勉強した。
お父様もお母様もそんな私を褒めてくれて、笑顔と笑い声が絶えない家で…好きなままでいられたのはこの頃までだった。
「今年は不作です。どうか、税を下げて下さい。」
「…分かっている。しかし、今の税は既に国の規定を大幅に下回るもので三年は続いている。これ以上は……。」
不作が続いて領民の生活が苦しさを増すと、いつもニコニコ接してくれていた領民達は私に冷たくなった。
「お嬢様は綺麗な服を着れていいねぇ。ウチの子はこんなボロで…。」
「お嬢さんから男爵様に税を減らすよう言ってくれよ。」
会う人会う人二言目には税を下げろや自分達だけ贅沢してと言ってくる。誰も知らない、どんどん空っぽになっていく家の中を。誰も知ろうとしない、寝る間も惜しんで仕事するお父様の事を。
「皆を悪く思わないでね。」
お母様のそんな言葉は私の心には入っていかなかった。
社交界デビューをする歳、お母様は自分の着なくなったドレスを私用に作り替えてドレスを作ってくれた。
黄色でリボンの着いた可愛いドレス、とても嬉しくて初めての夜会にドキドキしながら行ったのを覚えてる。
「貴女はどこの家の子?」
「私はレッドラン男爵家の…」
「男爵家、そう。」
家の名前を言うと私の名前を聞かないで去って行くお姫様達。お母様が作ってくれたドレスをクスクス笑いながら聞こえるように貶めるお姫様達。
その時、全部が嫌いになった。
自分勝手な領民も蔑む目しか向けてこない貴族も言い返しもせず耐える人の良い両親も。全部全部嫌い。
こんな境遇覆してやるわ。物語のお姫様のように王子様の隣で絶対に幸せになるの。その為には必ず学園で王子様の目にとまらなきゃ…。
※
学園に入学後、周りに散々迷惑をかけた私はお父様に退学の手続きを取られ直ぐに両親が迎えに来た。お父様は数週間ぶりなのに更に痩せて顔色が悪くみえ、お母様はずっと俯いたまま。
馬車に乗ると学園の門は直ぐに閉ざされた。
「これからサウマ侯爵家に謝罪に行くからきちんと頭を下げるんだよ。」
「……はい。」
到着した侯爵家は大きくて綺麗でたくさんの使用人が居て、ウチと比べるのも恥ずかしくなってしまうくらい立派だった。
「この度は大変、ご迷惑をおかけ致しまして申し訳ございません。」
お父様の後に続いてお母様と頭を下げる。目の前には侯爵様とランディス殿下の婚約者が座ってて、チラッと見るととても冷たい表情をしている。
「本日、学園の退学の手続きをしてまいりました。我が家には差し出す事が出来る物が何もございません。どうかこの首をもって償いとさせていただければと……。」
「…爵位を返上したのは本当か?」
「はい。昨日、手続きを致しました。」
「……ぇ…?お父様?」
「おや、ご令嬢は知らなかったようだ。」
「嘘…。お父様、嘘よね?」
爵位を返上した。つまり私は貴族では無くなる?それもだけど…今、首でって……?
「貴女は自分のした事の重大さが分かっていないのね…。私とランディス殿下の婚約に割って入るという事は反逆と同じ。処刑もおかしくないわ。もし、命が助かったとしてもこの様な事をしでかした貴族と誰が繋がりをもって?」
「ご、ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!何でもしますからどうか殺さないで下さい!!!バカなのは私だけなのっ!私が死ぬからお父様とお母様は助けて下さいっ!!!」
私、取り返しのつかないバカだ。やっと気づいたけど、それも遅かった。私は私がやった事で死ぬけどお父様とお母様はダメ。私のせいでなんて死んではダメっ!
「…頭をお上げ?」
「……。お父様とお母様だけは…。」
「貴女、やっと今、人間になりましたね。お父様、私が罰しても宜しいでしょうか?」
「……好きにしなさい。」
「一家全員、生涯我が家の為に尽くしなさい。それを罰とします。死ぬ気があるのならば私の為に尽くしなさい。」
「……はい。ありがとうございます。ありがとうございます…。」
私、なんて身の程知らずだったんだろ……。




