二人の王の妙案と共同管理地
「やっと成ったか…。」
リンデ王国国王は深夜、一人祝杯をあげた。真っ赤なワインが入ったグラスをモルトン国の方へ上げ、今頃自分と同じように祝杯をあげているであろう友と乾杯をするかのように。
祝ったのは迷惑な姉妹とその子供達、その親をモルトン国とリンデ王国の
共同管理地へと送る事が出来た事。これは十五年越しの二人の王の願いだった。
十五年前、リンデ王国国王が酒の席で漏らした側妃の愚痴、これに涙しながら共感したモルトン国国王は意気投合し計画を練り始めた。
「姉妹は悪魔だー!リンデに嫁がせるだなんて我が国は終わったと…ぐすっ…ぐすっ…。」
「わ、悪気があった訳でない事は分かった…。」
それはもう半分以上愚痴になってはいたが計画は完璧に練った。あとは役者を揃えるのみ。初めは子供達は含まれていなかったが、子は親をみて見事に育ってしまった。離さなかった事が悔やまれる。罪悪感、まともに育った未来がちらつく。
(コンコンコン)
「…水臭いですわ。私もご一緒させて下さいませ。」
簡単な摘み等を乗せたワゴンを押した侍女を連れて入室した王妃は侍女を下がらせると国王が手ずから王妃のグラスにワインを注ぐ。
「苦労をかけた…。」
「いいえ、私だけではありません。それに、今回の功労者はハルソン公爵家のリリエールですわ。」
「そうだな…。」
夫婦の時間はゆったりと過ぎる。肴は充分にあるのだからと二人は夜が明けるまで楽しみ、久しぶりに筆頭を務める老齢な侍女にお叱りを受けた。
※
リンデ王国の最高権力者が筆頭侍女に叱られていたその時、モルトン国とリンデ王国の共同管理地で一晩過ごした管理者達は浮かない表情で朝食の席についていた。
「何だこの食事は…。」
人数分用意されたのは見た目から硬そうなパン二つと具の細かいスープ、採れたての野草一種のサラダの三品。
昨日の昼過ぎに到着してから初めての夕食ではコレらの三品とイノシシの肉のステーキが出てきた。屋敷唯一の使用人の老人に六人全員で文句をつけ、次からはもっとマシなものを出すようにと叱ったのにも関わらず全く改善されていない。むしろイノシシの肉が無い分悪くなっている。
「夕食を大変お気に召して下さったじゃろ?喜んでもらえるよう朝食も同じにしたんじゃ。」
「「「「「「喜んでいないわ(よ)!!!」」」」」」
「フォッフォッフォ。またそんなに。たくさん食べて下され。食べ終わったら領内を案内しますじゃ。」
話の通じない使用人は部屋の隅でニコニコと食事を始めるのを待っている。
しかし誰も朝食に手はつけず肩を震わせ俯いている。
「お、お前の教育が悪いんだー!」
「まぁっ!貴方だって家庭を顧みず愛人ばかりつくって貢いでたじゃないですか!!娘達が弄れたのは貴方のせいですわっ!」
「お母様酷いっ!お姉様はともかく私は弄れていないわ。」
「なんですって?!妹の分際で姉になんて口を聞くのっ!!そもそも貴女の息子がきちんと王太子になっていれば問題なかったのよ?分かっているの?!」
「それを言うならお姉様の娘は継承権すらもらっていなかったじゃない。」
「いくら叔母と言え私を貶める発言、許しませんよ?」
ギャンギャンと吠える親類と母を前にマルクレールだけは一人、食事の内容に怒っていた事が無かったかのようにニコニコしている。それに気がついたシリルマリンは罵る輪から外れマルクレールに声をかけた。
「なんでそんなにニコニコしていられるのよ。」
「母上が元気な事が嬉しいだ。それに、君は母上そっくりだ。まるで母上が若返ったよう…。今までの暮らしは贅沢だったけれど傍に母上がいる以上の幸せは無い。食事も部屋も気に入らないけど。」
「何よそれ…キッモ。」
「ああ…その目……いいな。」
「はあ?!」
ニコニコと新領主一家を見守る老人の使用人は更に拗らせたマルクレールにドン引きするシリルマリンの会話も聞き逃さない。
「コレはどちらの王にも面白い報告ができそうじゃの。」
一言一句間違わないように手紙を認めたのは領内の案内を終えた半日後だった。




