バルドラの動揺
「今日もうちの横暴姫は元気に暴れたな…毎日毎日、たまには休ませて欲しい。」
バルドラはベッドに倒れ込み現実から逃げるように眼を閉じ協力者の存在を思い浮かべる。
数日前、留学して早々に出来た協力者、ハルソン公爵令嬢。
登校初日に横暴姫を止めに向かってきた凛として優し気な瞳を持つ令嬢は目の前にいる何処までも理不尽な存在とは相反する存在にバルドラは好感を持ち親交を持ちたいと思ったが、その場は直ぐに挨拶をして離れる事となった。
幸運にもあちらから手紙が来て席を設けられたが、同席していた婚約者には驚いた。まさかパーティーで横暴姫に気に入られていた彼の君の招待をここで知るなどとは思わなかったからだ。
「色々(・)と、協力できると思うんだ。」
何処まで知っているのか分からない腹黒い笑顔の彼の君は婚約者の肩を抱き牽制してきた。バルドラは一瞬選択を間違えたのではと後悔したが後悔は先に立たない。
護衛という建前で付けられた女騎士からもハルソン公爵令嬢の話を聞いたが、褒め讃える言葉しか口にしなかった。そう、周りにいる人物が問題なだけで本人には何も問題はないのだ。バルドラは己に言い聞かせた。
今日の昼も少し嫌そうな顔をしながらも手を貸してくれた。横暴姫だけでも手を焼いているのに、やたら横暴姫の琴線に触れてくる男爵令嬢を引き受けてくれたのだ。おかげで少し楽ができたのだから感謝しかない。
男爵令嬢を刺激しないようにやんわりとその場を離れさせる姿はまるで幼子に言い聞かせる母親のようで、それでいて少し覗かせる素の表情は少女の愛らしさがあった。
「…触れたいな…。」
思わず出た言葉に驚いてベッドから身を起こした。口に手を当ていつもより早い鼓動を感じながら必死で否定の言葉を思い浮かべる。
「嘘だろ…?いや、無い。無いから。まだ数えるくらいしか会って無いんだぞ?婚約者もいる相手に何言ってるんだ。」
否定の言葉は口から漏れボリュームを増す。だがいくら否定しようとも目ばた感情は消えなかった。
「最悪だ……。」
バルドラは初めての感情に弄ばれながら就寝までグルグルと悩み続けた。共に夕食を取った横暴姫の話をロクに聞かずに相槌だけうち、風呂を済ませベッドに入ってもグルグルと悩み、気がつけば朝日が顔を出していた。
「おはようございます。王女殿下。」
「…顔色が良くないわね。」
朝、朝食の場に青白い顔をして現れたバルドラを横暴姫は思案顔でじっと見つめた。
「申し訳ございません。少々寝不足なだけですので。」
「ふ~ん……。そうだわ。その様な顔色をして倒れられたら迷惑だから今日は休みなさい。」
「いえ、そういう訳には…。」
「じゃあ命令よ。今日は休みなさい。それでは、私は行くわ。」
「あ、お待ち下さい!」
フラつくバルドラではスタスタと歩いて行く横暴姫に追いつけず、バルドラが玄関を出るとバルドラを置いて走る馬車が目に入った。
「これはマズイ…。」
バルドラは急ぎ屋敷の中に戻ると緊急事態だと叫んだ。
※
「ふふ……ふふふふアハハハッ!やったわっ!後はあの女騎士だけ。」
醜悪な顔で高笑いする横暴姫は自由に向けて走り出した。
最大の邪魔者、バルドラは馬車の無い屋敷に置き去りにできたので後は学園の門で待っているであろう女騎士のみ。横暴姫の女騎士の印象は脳筋、そしてある令嬢の事にすぐ熱くなる。そしてその判断は間違ってはいない。
「そうだわ。」
ニヤリと笑った横暴姫は学園が見えてきて門まで数分という場所で窓からハンカチを落とした。
「あっ。止まりなさい。」
「どうしたんで?」
「ハンカチを落としました。拾うから停めなさい。」
「御屋敷と学園以外で降ろさないように言われてますんで。」
「なら取ってきてくれれば良いわ。門に着いて降りたら渡して。」
「それなら…。」
横暴姫は御者に馬車を止めさせハンカチを拾わせる。ハンカチの特徴だけ伝えて窓のカーテンをしめると、そっと反対側の扉から外に出た。
「ハンカチを拾ったんで出しますよ。」
「ええ。行って。」
そのまま馬車を走らせると自分の足で学園に向かう。そして遠目に自分の馬車が学園の門に着いたことを確認すると、そっと物影に隠れて様子を伺った。
御者が女騎士と慌て出し、女騎士が御者と慌てて走り出す。目的地は先程ハンカチを拾った場所だろうが、横暴姫はそこよりも学園の近くに移動している。物影にいる事がバレずに目の前を通過していったのを見計らい、横暴姫は学園の門をくぐった。
「これで今日は自由の身。」
学園に入りはしたけれど勿論授業を大人しく受ける気は無い。
第一の目的はゆっくり会うことのできないランディスを探す事。そして、いつも邪魔をする者たちにきちんと己の立場と言うものを分からせてやる事だ。
「さて、何処に誰がいるのか…。」




