まるで悪夢の再来のよう
(コンコンコン)
「お嬢様、ハーバイン様がお見えになりました。」
「分かりました。」
本日は隣国から来られる王女殿下の歓迎パーティーです。エスコートは勿論ハーバイン様がして下さいます。
「リリエール…綺麗だ。まるで月の女神が降臨したようだよ。隣を歩ける私はこの上無く幸せだ。」
「ありがとうございます。本日はエスコート宜しくお願い致します。」
ハーバイン様と馬車に乗り込み城に着くと既に多くの方々がいらっしゃいます。お父様とお母様は先に来られているはずですが、直ぐに見つけるのは難しそうです。
探すのは後回しにしてハーバイン様と談笑していると少し騒がしい一角が有り、状況把握の為に視線を向け背筋が凍りました。
「貴女、私とドレスの色が同じなんて不敬よっ!今すぐ脱ぎなさいっ!!」
「そんな…。」
「出来ないっていうの?私は国賓よ。貴女なんかより尊い身分でこのパーティーは私の為に開かれているの。早くしなさいっ!」
(バシッ)
「つッ…。」
まるで側妃様をお若くしたような容貌、そして瓜二つの行い…間違いなくあの方が留学されてきた方でしょう。
公爵家の令嬢として放ってはおけないですが、どのように収めれば良いのか……。取り敢えず扇で叩かれているご令嬢をお救いするのが先ですわね。
「このっ!このっ!貴女なんて家ごと没落させてやるわっ!!あ、そうだわ。脱がないのならば別の色に染めてしまえば良いのよね。」
「リリエール、ここは私が行くから待っていて。」
「ハーバイン様…。」
「君に害があっては行けないからね。」
ハーバイン様に壁際のソファにエスコートされ、待つように言われてしまいました。ハーバイン様ならば問題ないと思いますが…心配はしてしまいます。
「王女殿下。そろそろ陛下が入場されます。お戻りください。」
「取り込み中よ。」
「失礼致します。我が国の貴族が不快な思いをさせ申し訳ございません。連れ出しますのでご容赦ください。」
「貴方だれ?……中々見目が良いわね。許すわ、名乗りなさい。」
「王女殿下っ!お早くお戻りくださいっ。」
「煩いわね。外交官の息子風情が私に指図しないでっ!不愉快だから今すぐ国に帰りなさいよ!」
「この場で貴重なお時間を頂戴する訳にはいきませんので御前失礼致します。」
「あっちょっと……。」
流石ハーバイン様。叩かれていたご令嬢を背にかばいご自身も流れるように立ち去る。なんて手際の良さでしょう。
「ただいま。リリエール、申し訳ないが一度私と会場を出てくれるかな。」
「ですが、もうすぐ陛下達がお見えに…。」
「大丈夫。安全な場所に行くだけだから。」
ハーバイン様に連れられて来たのはカーテンで少し隠されたクランディット家の為のロイヤルボックスでした。ですのでハーバイン様のご両親も当然いらっしゃいます。ご挨拶すると私の分の席も御用して頂きました。
「突然お邪魔してしまい申し訳ございません。」
「構わんさ。一部始終をみていたからね。」
「我が息子ながらここに避難しなくてはいけない手しか打てなかったなんて情けないわ。」
「返す言葉もありません。」
「全く…ここまであの方に似てると思わず積年の恨みを晴らしてしまいそうになるわ。」
留学されて来られた方は側妃様のお姉様の子、つまりは姪に当たられるそうです。
側妃様のご実家は隣国の公爵家。お兄様が公爵家を継がれる予定で、お姉様が自国の王の第三側妃として嫁がれたそうです。
「姉妹揃って好き放題していたみたいよ。リリエールちゃんは我が国の側妃様の馴れ初めをご存知?」
「確か…陛下に一目惚れした側妃様が手を尽くしその地位に収まったと…。」
「そうね…手を尽くしているわ。だって隣国を陛下が訪問された際にお風呂や寝所に裸で現れ、その姿を見たからには責任を取れと迫ったのですから。」
「「ぇ゛……。」」
「それを聞いた王妃様が激怒されて戦争になりそうだったのよ。その責任を取る為に実家の公爵家は三分の一の領土を返納し、第三側妃の姉は側妃の為の部屋からワンランク下の部屋に移されたそうよ。そして隣国の王が頭を下げ引き取る事になった我が国の側妃様は陛下に盛って既成事実をつくりムグッ。」
「喋りすぎだよ。ハニー。」
「あら。リリエールちゃんだつて知っていても良い事よ?」
「いきなりそんなディープな話しをたくさんされたら戸惑ってしまう。それに、陛下が入場するよ。」
「ふぅ……残念だけどまた今度お話しましょう。リリエールちゃん、あの王女には気をつけなくてはダメよ?」
「ハ、ハイ。」
深すぎて息が止まってしまいそうでした。不安しかありません。ハーバイン様は既に見初められてしまっています。名乗らずに戻って来られましたが時間の問題。側妃様姉妹のような方だとすればハーバイン様が…。
「私、必ずやハーバイン様の貞操を守ってみせますわっ!」
「リ、リリエール?何やら間違った考えを持っていないかな。」
「あ、ハーバイン様、王族の方々がみえましたわ。」
立ち上がり最上の礼で王族の方々を迎えますが、その中に側妃様とマルクレール様の姿はありません。色々と耳にしたせいか居ないこととして扱われる姿が何となく複雑です。
そして、陛下は挨拶された後に紹介された隣国モルトン国の第五王女シリルマリン様を国賓とは紹介されませんでした。このパーティーの資金はモルトン国が出しており留学を容認した我が国への感謝と挨拶の一つとして催ししたいと相談され協力したまでと続いてモルトン国国王からの手紙を読み上げました。
その中には我が国でシリルマリン様を隣国の王族として扱わずにモルトン国の貴族の娘としての扱いで充分と明言されておりました。
その手紙が読まれた瞬間、シリルマリン様は俯き肩を震わせておりました。




