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溺愛した分だけ憎しみは強いとか

ゴシップ記事がバラまかれた次の日、国は公式に記事の内容に真実が混ざっていると公表した。流石に全面的に認める訳にはいかないので、あくまで真実が混ざっているとした上で騒ぎを起こした第一王子のマルクレールの王位継承権を剥奪すると宣言し終息を図った。


「くそっ!誰だっ!!誰がっ!!!」


マルクレールは自室の壁を殴りつけ怒りを納めようとするが一向にその気配は無い。制限は更に厳しくなり必要な時以外に城を歩き回る事も出来ない。

勉強はマナーのみなりそれも自室で受け、剣の稽古は無くなり、学園からは中退は認められない為特別教室が設けられ他の生徒との接触がほぼ無いようにと配慮される事となった。


「母上…。」


マルクレールが今支えにできるのは側妃の存在のみ。

いつも優しく自分を愛で包み込んでくれた、何よりも自分を優先してくれた母の存在。マルクレールはどうしても会いたくなりコッソリバルコニーから部屋を抜け出した。


側妃の部屋はマルクレールの部屋からそう遠い位置には無い。バルコニーから庭に降り、大きな木を登り側妃の部屋のバルコニーに降り立ったマルクレールは窓からそっと中を伺う。


部屋の中には物憂げに座る美しい母の姿がある。侍女も見当たらず部屋には一人のようだ。久しぶりに眼にしたその姿にマルクレールの心は踊った。


鍵がされていないガラス扉を開けた瞬間、側妃と目が合う。


「母上っ!」


「マル…クレール…?」


「はいっ!そうです。マルクレールです。会いたかった…母上…。」


マルクレールは膝まづき、母の手を取り嬉しそうに頬ずりする。すると、いつもは滑らかで花の香りがする手が少しガサッと

し、マルクレールは何となく見上げ母の顔をみた。


「ははま…うえ…?」


向けられる視線のあまりの冷たさにマルクレールはそっと手を離し身を引く。


「よくも……よくも顔を出せたわね…。自分が何をしたか分かっているのっ!借金の返済の為に私の宝石やドレスは没収された…欠陥品の母として笑い者にされた…使用人も減らされこの部屋も追い出される…祖国からは離縁となっても戻らぬようにと手紙がきたわ……。お前の、お前のせいよっ!!!」


半狂乱の母を前にマルクレールは顔色を無くし逃げるようにバルコニーに走り出す。その背には罵倒と小物が投げつけられ、庭に降りた頃には二度と顔を見せぬようにと叫ばれていた。


「は、はは…う、え……。」


マルクレールの頭の中に今までの優しい母の思い出が廻る。

その場で蹲り、幼い頃から怒られた事も無い、優しい優しい母の姿で必死に現実から逃げ出す。


いつまでそうしていたのか、騎士に発見されたマルクレールは自室に連れ戻されるが呆然としたまま食事も取らず俯いて座っていた。







「フーッフーッフーッフーッ…」


マルクレールが側妃の部屋から逃げ出した直後、何かを投げつけたままの姿勢で荒く呼吸をする側妃は血走った眼でバルコニーを睨みつけていた。

そして、もう戻って来ない事が分かると椅子にドカりと座りティーカップの中のぬるくなった紅茶を煽る。


目に映る部屋には気に入っていた絵画や置物があった跡しか無く、溢れんばかりだったクローゼットの中はスカスカで祖国から持ってきていた宝石すら半分無くなった。


「こんな…あの子のせいで……。」


昨日の晩、マルクレールのゴシップ記事と共に王から届いた手紙はティーカップの横に広げられたまま置かれている。何度読み返しても内容は変わらない事は分かっていても読み返さずにはいられない。


マルクレールが賭博でつくった借金はマルクレール本人の財産及び予算と側妃の財産及び予算から返済される。今回の騒ぎの責任としてマルクレールの王位継承権を剥奪し、側妃の嘆きの間での蟄居を命ずる。


決定事項のみが書かれた手紙は王のサインで締めくくられている。

嘆きの間は何代か前の王の側妃が不貞を働き生涯を過ごす事となった場所。嫁いだ際に同じ過ちが起きぬように知識としてと案内された事がある。まさか自身が入る事になるとは思ってもいなかった。


「こんな事…許されるはずがないわ……。」


側妃はクローゼットから地味なローブを出し、手元に残った少ない宝石を手に取ると城から抜け出した。向かった先は路地裏の薄汚れた家。仲に入ればボロを見に纏った男が値踏みをするように側妃に視線を這わす。


「いらっしゃい……。」


「コレで、やって欲しい事があるわ。」


「ふーん……。」


カウンターに出された宝石を手に取りじっくりと鑑定した男はカウンターの後ろにあるドアをリズム良くノックした。


「上。」


そう一言だけ言うとドアが開き黒いローブを着た男が出てくる。

全貌が分からなくてもかなり鍛えられていることがフォルムで分かる。


「ご注文は?」


「ハルソン公爵に行って娘のリリエールを王族マルクレールの部屋まで連れてきなさい。あと、傀儡薬を一つ手配して。」


「承った。」


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