特別な場所
「ようこそお越し下さいました。私が学長を務めておりますクラッカリーと申します。ここでは家名は名乗らない事となっておりますのでご容赦ください。」
「お初にお目にかかります。リリエールと申します。」
「フランシスと申します。お目にかかり光栄でございます。」
お邪魔しているのは王国屈指の研究者が集う場所、英智の学舎です。
ちなみにこの名前、正式なものでは無く、正式には<英智の学舎~ああ、我らの王国に栄光あれ。総ての知は我らが手に、総ての利は我が国の為に有り~>という初代学長が付けた長い名前なのですが正式に呼ばれるのは公的文書を読む時くらいです。
ここの研究者になるには学園で三年間Sクラスを貫き試験に合格された方のみ。そして研究者以外に足を踏み入れる事を許されているのは王族では陛下と王妃様、それ以外には学園をSクラスとして卒業した方と現役Sクラス生のみ。
そのような場所に足を踏み入れる事が出来るだけでも光栄ですのに私とフランシスは数日の滞在を許され此処に来ております。王妃様のお心遣いに感激してしまいます。
ハーバイン様に送っていただいた次の日、一番に来たお手紙はハーバイン様からでは無く王妃様からでした。その次がハーバイン様でしたが、王妃様のお手紙はお母様と一緒に読ませていただいて二人で慌てて荷造りし直しましたわ。ハーバイン様のお屋敷と英智の学舎では同じ荷物では行けませんもの。
しかも、お手紙が届いた次の日の朝にお迎えに来ていただくとなるとそれはもう……。
「もうすぐ王妃様が来られるそうです。それまで建屋の中を案内しましょう。」
「「ありがとう存じます。」」
学長自らご案内していただけるなど
恐れ多くもありましたが、気難しい方では無い事が分かり安心しましたわ。
ご用意くださったお部屋はフランシスと隣同士でしたし、素敵な時間を過ごせそうです。
王妃様が到着されると挨拶も早々に応接室で人払いがされ、学長も下がり王妃様と私達の緊張感ある空間で王妃様はいつもより険しいお顔をしておられます。
「二人には現状をきちんと把握して欲しいので人払いしました。」
王妃様のお話は現在のマルクレール殿下と側妃の立場についてでした。
私達との婚約が無くなった事でマルクレール殿下が立太子される可能性が低くなり派閥は縮小。側近も辞され傍にいるのは教師くらい。今回の件で予算も減らされたそうです。側妃様も行動制限が厳しくなり予算を減らされ、マルクレール殿下とは手続きをし、監視付きで短時間の接触しか出来ないようにされているとの事。
マルクレール殿下は学園に戻されても監視とハーバイン様が付き他の生徒との接触も控えさせるそうなのですが…。
「間違いなく二人に接触してきます。二人のどちらかが婚約者になれば、この状況を打開できると思っているでしょうから。
もちろん二人に相手がある事は教えてあるわ。だから既成事実をつくりにくるでしょう。」
「あの、ナターリアは大丈夫なのでしょうか。」
「実はスノウェル侯爵令嬢にマルクレールは興味が無いわ。髪と瞳の色で括ったから候補になってはいたけれど側妃とは印象が似ていないからかマルクレールは一瞥もしていなかった。」
「そうなのですね。」
「実は貴女達二人は第二王子の婚約者候補でもあったから王妃教育一歩手前まで学ばせていたけれど、スノウェル侯爵令嬢はそうでは無いから客観的に分かるように礼儀作法は少し緩くしていました。」
「そうでなのですね。」
「二人が滞在中に各家に囮を遣わせました。餌にかかるようにマルクレールの監視を緩めますから終わるまでは英智の学舎を堪能していなさい。あまり無い機会でしょう。」
「「ありがとう存じます。」」
お話が終わると王妃様は早々に城へお戻りになりました。
その後、フランシスとお茶をする事にした私は自室にフランシスを招きひと息つき先程の王妃様のお話を思い返します。
「ナターリアにご興味がないのであれば…早々に解放して下されば良かったのに……。」
「本当に、ナターリアが不憫でなりません。無事にお相手と結ばれたから良かったものの、乙女の時間を無駄にする事になった罪は軽くはありません。」
「フランシス…私、このままではいられません。」
「リリエール様、私も。」
この特別な場所に居る間、もちろん沢山の事を学ばせていただきますが、王族と言えど私達だって黙ってはいられませんわ。
家と周りの方々に責がいかないように考えながらマルクレール殿下と側妃様に今までのお返しをする方法、絶対に考えてみせます。
※
「さて、王妃様と元婚約者候補の二人と彼女らのパートナー。全員が気持ちよく終われるように調整するのは我々の仕事かな?」
「そうですね。その中に教師陣も入れれば完璧です。」
「なかなか多いね。」
「私達なら出来ます。」
「では素晴らしい舞踏会の為のシナリオは学舎総出でつくりましょう。」
「学園はその場を提供致しましょう。」
「「総ての利は我が国の為に」」




