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虚像の世界

 

 出所してから初めての年の瀬──12月は息つく暇もないほど忙しく、休みの日はほとんど動けないほどだった。正月休みは12月29日から翌年の1月5日までで、初出は6日からだ。刑務所の中でもそれなりに年末年始を感じさせるものはある。お年玉などは当たり前だがくれやしないが──。年越しそばにはカップ麺、元旦にはおせちなどが一応振る舞われる。


 拓哉は季節の変わり目は敏感に察知できるが、クリスマスであるとか、初詣等、恋人がいれば必ずと言っていいほど一緒に過ごすイベントには疎かった。瑠璃はそういった事にとてもこだわりがあって、クリスマス、初詣と既に何をするかを決められていた。クリスマスは、二人で千葉の方のレジャー施設に行き、超満員の中クタクタになりながら過ごした。瑠璃にとっては初めて恋人と過ごすクリスマスらしく、とても喜んでいた。社長の敏生もクリスマスイブ、クリスマスと泊まりがけでいなかった為、夜は拓哉の家に泊まった。瑠璃からもらったクリスマスプレゼントはカーキ色のミリタリージャケットでとてもカッコよくて暖かい。瑠璃には、指輪が欲しいと言っていたので、誕生石であるアクアマリンの指輪を買った。



『最終の配達お疲れ様。こっちには7時過ぎるんじゃない?』



 今年最後の配送を横浜で終えて、会社に帰る道中に瑠璃からメッセージが届いた。高速道路も一般道も混んでいた。



『もう少しかかるかもしれない。先に帰っていいよ』



 何度も通る会社までの道のり──車の混み具合や、少しの時間のズレで大幅に到着時間が送れてしまう。明日は会社の大掃除で、業務としては今日が仕事納めだ。



『桐敷さん、お電話よろしいですか?』



 瑠璃からの返信かと思ったら、ユリからだった。あの蟹鍋の日から会っていない。仕事関連のやりとりは何度もしているが、電話となると久々である。


 あの日はユリには手を出していない。というより、本当にユリは熟睡していた。寝たフリではない。そう言い切れるのは、いびきをかいて寝ていたからだ。そんな強烈なものではない。寝息に少しだけボリュームを足した程度のものだ。もちろんその件はユリ本人には言っていない。

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