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12話

 

 悪気や深い意味はない。持って生まれた能力と言った方がよい。拓哉にとっての天職はやはりホストなのかもしれない。あの事件さえなければ、順調にピラミッドの頂点に到達していただろう。だが、人生思いもよらない事は起こり得る。坂道を転がり落ちるような不幸、あるいはその逆で、一発逆転の上昇──。どんな事が起きてもそれなりの“準備”が必要だ。心の準備、現実的な準備。



「口説いてます?」


「口説かれに来たでしょ?」



 ユリは口を紡ぐ。拓哉の目があの頃の自分が憑依したようだった。自身に満ち溢れた言葉は例え胡散臭いものであっても説得力がある。拓哉はユリの手を握った。



「彼女いるじゃない。可愛らしい彼女がいるじゃない」



 拓哉はユリの唇に人差し指を当てた。



「いちゃまずいの?」


「まずくないけど、私独占欲半端ないから」



 拓哉は顔を近づけてユリにキスをする。アルコールの匂いと化粧の匂いが混ざったキスは、ホスト時代を思い出させた。甘い言葉を掛ければ落とせない女性はいなかった。全てはお金の為であり、高見を目指すRPGであった。だが、今はどうだ──何の為にそのスキルをユリに惜しげもなく使うのか分からない。会社を経営しているからか、それとも絶世の美女だからか、或いはその両方か──。


「これ以上はやめておくわ。戻れなくなっちゃうから」


「何処に戻る気?」


「私、初めて会った時に何か電気が走ったみたいに変だったの」


「同じだ。だから、何処かで会った? と聞いたじゃない」


「あれは本当だったの? てっきりナンパかと思ったわ」



 ユリの大きな目が見開く。口紅がはげ落ちている顔はとても綺麗で、幼く見えた。



「私、最低よね。彼女いるの分かっててさ」


「理屈じゃないよ。人の気持ちなんて特に」


 拓哉はいつになく饒舌であった。先の事など何も考えてはいない。いや、止められないと言ったほうがいいかもしれない。この状況であればどんな男であっても回避は困難だ。


「ん? 携帯なってない?」



 テーブルの上に置いてあるスマホが揺れる。拓哉は手に取り、届いたメッセージを読む。

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