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10話

 

「桐敷さん、蟹はお口に合いました?」


「美味しかったです。蟹なんてまともに食べた事なかったかもしれません」



 ユリは缶ビールを計四本開けて、真っ白な頬は薄紅色に染まっていた。



「初めてって事?」


「記憶にないんですよね。蟹とか食べた記憶が」


「35年以上生きてきて?」


「そうですね。臭い……いや、何にもないです」



 思わず『臭い飯』と言いかけた。子供の頃、施設にいた頃はそれなりに所謂普通の食事だったが、ホスト時代は、ほとんど何を食べていたか覚えいない。それほど強くないお酒を飲む為に、胃に何んでもいいから放り込んでいただけで、“味わう”であるとか、“ご馳走”というものにありついた事は皆無だった。刑務所時代は、言うまでもなないだろう。



「桐敷さんて、何でも話してくれてる気がするんだけど、肝心な事は絶対教えてくれなさそう」



 ユリの言葉に肝を冷やす。今の時代、名前さえ分かれば何でも検索をかけて調べる事が出来る。SNS等は何もやっていないから、逆に直で例の事件にヒットする可能性が高い。だが、“ホスト”というワードに対してのリアクションはあらかじめ知っているとは思えないほど驚いていた。



「人には言えない事もありますよ。二階堂さんもあるでしょう?」


「二階堂さんって……。距離感じちゃうな」


「じゃあユリさん」


「まだマシだわ。何か一つ秘密を明かしてください」


「唐突過ぎでしょ。明かして欲しいならまずはそちらからですよ」


「あっ! 意外にSなんですね」


「いやいや、真っ当ですよ」



 ユリはテーブルの上のへしゃげた缶ビールを見つめている。一発目だからそんなに重くない秘密を探しているのか、真剣に何かを考えている。



「この間、妹の話ししましたよね?」


「はい。とても出来の良い妹さんの話しでした」


「実は血が繋がっているか微妙でして」



 のっけからとても重い内容に言葉が出ない。酔っているせいもあるだろう。大きな両目も完全に据わっている。



「何故そう思うんですか?」


「調べた訳じゃないですが、あまりに違いすぎるし」


「姉妹だからって同じではないでしょう? 全く違う性格の姉妹もいるでしょうし」


「そうですよね。でも、父親がちょっと問題のある人で」

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