あなたに会えた奇跡
トラックのフロントガラスから12月の景色が映る──今年も残り1ヶ月を切った。思えば、去年の今頃はまだ塀の中だった。出所後、あまりにも濃い日々の連続で、あっという間に年末といった感じだ。瑠璃との関係も良好だし、仕事も順調、これ以上は望んではいけないほど充実していた。ただ、二階堂ユリにアリバイを証明してもらってから1ヶ月弱、仕事で何度か会ったが、事務的な会話のみであの鰻を食べた日がまるでなかったかのようだった。
『拓哉、何時頃に到着予定?』
瑠璃からメッセージが届く。横浜、静岡で仕事をこなして都内に戻っている道中だった。高速を降りた国道脇のコンビニの駐車場で返信する。
『一時間ぐらいで会社に到着予定』
拓哉はコンビニに入る。ミネラルウオーターと缶ビールを買った。帰ったら、一人鍋でもしようと思っていた。料理は得意ではないが、クズ野菜と鶏肉をぶち込んで、市販のちゃんこ鍋の素と水があれば直ぐに出来る。スーパーの見切り品の弁当を食べるより、はるかに栄養はあると勝手に思っている。塀の中の寒さに比べれば大した事ないが、一人で食べる夕飯は心が寒い。この間ユリと鰻を食べたせいだろう。ユリが食べている顔が忘れられずにいた。とても美味しそうに食べるから、見ている方が幸せになる。
会いたくて仕方がない──顔を見るだけでもいいからと鳴らないスマホを見つめていた。
『えっ!』
コンビニの駐車場でスマホを眺めていると、ユリからメッセージが届く。胸が張り裂けそうになり、駐車場の端から端をウロウロしてしまう。気持ちを落ち着かせて、メッセージを開く。
『お仕事、お疲れ様です。お客様から蟹を頂きまして。冷凍のズワイ蟹なんですが、食べ切れなくて一緒に鍋でもしませんか?』
拓哉はスマホから目を逸らす。丁度一人鍋をしようと思っていたところにこのメッセージが届く──タイミングが良すぎるというのを通り越して、ある意味奇跡だ。直ぐに返信しようとしたが、どう返せばいいか分からない。一人鍋をやろうとしていたのは本当だが、蟹に見合う野菜はないしリサイクルショップで買った安い土鍋だ。
『お疲れ様です。実は一人侘しく鍋の予定だったんです。高級食材には合わないクズ野菜鍋なんですが……』




