14話
瑠璃の顔が浮かぶ。笑顔ではなく悲しい表情の瑠璃だ。彼女にどれほど助けられたか分からないし、彼女を愛している。ここでユリと食事に行く事は裏切り以外の何ものでもない。
「外食しないので。二階堂さんをお誘いするような店は知らないし、彼女に悪いから」
拓哉は自分の気持ちを整理する為にもあえて瑠璃の事を言う。
「感動しました。あり得ないぐらい」
「え? 何でですか?」
ユリの返答は意外なものだった。“感動”する箇所を探したが見当たらない。ただ、食事の誘いを断っただけだ。
「やはり誠実な方です。私の見る目に間違いはなかったです」
「誠実なんて……程遠い男ですよ」
「羨ましいな。『彼女に悪い』とか言われてみたいです」
「いやいや、もっと大事にされてきたはずですよ。絶対」
「そんな事ないです。浮気はされるし、お金は騙し取られるし散々」
「あんまり男運がよろしくないと?」
「そうですね。やめましょう。鰻が不味くなりますから。桐敷さん、とりあえず食べましょう」
「それでは遠慮なく」
割り箸から檜の良い香りがした。何気に割ったそれもかなり高級なものなんだろう。あれこれ高級と言うのもよくないと判断してユリには黙っていた。
「美味しいですね! 食べた事ないレベル」
「そうでしょう? 大好きなんです」
「この漬物も美味しいです。癖になる」
ユリは驚いた顔でこちらを見る。
「嘘っ! 私も大好きなんです。奈良漬です。独特だから好き嫌いが分かれますけど」
「いや、これは絶対必要でしょ。これとビールでもいい」
「ほんとっ! お酒のあてにもピッタリです。何だか嬉しいな」
何度も感じているが、ユリの顔を見ているとずっと前から知っていて、久々に再会したような不思議な感覚だ。そんな事はあり得ないはずだが、その柔らかな感覚をずっと感じていたかった。
「二階堂さん、ずっと前に何処かでお会いしてません?」
「またそれだ。初めて会った時も言ってましたよ」
「ナンパ? とか言ってましたもんね」
「そうそう。彼女いるのにナンパはいけませんよ」
そう言ってユリは、その小さい口いっぱいに鰻を頬張っていた。




