11話
ドクンと胸を打つ音が聞こえたんじゃないかと思うほど大きく響いた。話す事は山ほどある。刑務所に12年入っていた事、それは冤罪である事、優遇してもらう代わりに刑務官に身体を売っていた事、ヘドロのようにこびりついているそれらを綺麗な水で洗い流したかった。誰かに聞いて欲しい、分かって欲しい、常にその欲望に支配されていた。
「とくにないですよ。ホスト時代の事は思い出したくないし」
「ごめんなさい。変な事聞いてしまって。勝手に話しただけですもんね」
「いやいや、本当にないんです。これからを大事にしましょう」
「本当にそうです。これからですよね。でもね、不思議なんです」
拓哉は大嘘をついた。直後に後悔の波が押し寄せる。彼女に話すとどれほど楽になるだろうと──。
「不思議とは?」
「めちゃくちゃ楽になったんです。ありがとうございます」
拓哉は心を読まれている気がして少し寒気がした。彼女に話すと間違いなく楽になるだろう。その楽な気持ちが恋と勘違いしてしまうかもしれないし、傷つく必要のない人間を悪戯に堕としてしまう事になる。例えば瑠璃だ。彼女を傷つける事は許されないし、それは人として終わっている。自分が楽になりたいが為に誰かに荷物を背負わせる奴の未来は、言うまでもなく悲惨なものだ。
「楽になったならよかった。何でも話して下さい」
「それじゃもう一つ聞いていいですか?」
「何でしょう?」
「あの可愛いらしい事務の女の子は彼女ですか?」
返答に困る。明らかに動揺した仕草を彼女に見せてしまう。だれがどう見ても未成年に見える女と付き合っていると堂々と言えなかった。瑠璃との交際を隠したい訳ではない。彼女にどう言えば良いのか言葉が出てこないのだ。
「すいません。ノーコメントで」
「えっ! ズルいですよっ! 桐敷さん」
「想像にお任せします。二階堂さんはどうなんです?」
「私? 私はいません。彼氏はもう何年もいませんし、魅力ある人も少ないですし」
「それはもったいないですね」
「歳だけ取りましたよ」
拓哉は思い切って年齢を聞いてみる。女性にその質問は御法度である事は承知の上で。




