10話
二階堂ユリ──順風満帆に人生を渡り歩いてきたように見えていたが、耐え難い過去の出来事に悩まされていた。二つ下の妹の存在が彼女の心を蝕んでいた。妹は文武両道、大した努力もなしに、勉強やスポーツを高いレベルでこなす。一方、何をやっても人並みが精一杯であった姉のユリは、妹に対して激しく嫉妬していた。何故なら、両親の寵愛を一身に受けていたからだ。
ユリは絵がとても上手かった。小学校でも賞を貰えるほどの実力だった。ある日、表彰状をもらったユリは、両親に得意気にそれを見せる。妹には勉強やスポーツは逆立ちしても勝てなかったが、絵という分野では負ける気はしなかった。
「お前は画家にでもなるつもりか? そんなものは何の価値もないんだ。もっと勉強しなさい!」
父親の言葉は無情なものだった。母親に助けを求めても「お父さんの言う通りよ」と、誰も賞を取った事を褒めてくれなかった。褒めるどころか、「そんな才能は無駄だ」と。勉強が出来る事が絶対正義で、スポーツが出来る事は勉強が出来る事をより浮き彫らせる為のサブスペックだと言われ、どちらも出来ないお前は不良品であると言われ続けた。ユリは妹が憎くて仕方なかった。彼女さえいなければ、自分はもっと必要とされていたはずだと。
「……胸が痛いですね。血が繋がっているのに、そんな風に思わないといけないなんて」
彼女は大きく頷く。まるで生まれて初めて分かり合えたようなそんな眼差しを拓哉に向けながら──。
「桐敷さん、そうなんです。妹とは本当に仲が良かったんです。高校に入るまでは」
「あなたは人を妬んだりするような方じゃないです。よほどの格差を両親に見せつけられたんでしょう」
彼女は大きく頷き、目に涙を浮かべいていた。
「私、こんな話しを何で桐敷さんにしたんだろう……」
「話しやすいって事ですかね。自分で言うのも何ですが、聞き上手ではあります」
「それかも。何か自然に話しちゃう。でも、重い話しなんで忘れて下さい」
「いやいや、かなり濃い話しですし、忘れるのは無理です」
「そうですよね。おあいこにしたいから、桐敷さんの話しを聞かせてくださいよ」




