5話
「はっ、はい。中へどうぞ」
ドアが開き、彼女の姿を見た。黒いレディースのスーツの彼女は、笑顔でこちらを見ている。その顔を見た瞬間、あの事件の日の事が蘇る。瓜二つとまではいかないが、死んだ彼女に似ていた。静岡で初めて会った時、この間事務所で話した時には思わなかったが、とてもよく似ている。生きていれば、丁度彼女の年齢ぐらいだろうか──。
「すいません。私、こういうものです」
田渕はドアの方に近づき二階堂ユリに警察手帳を見せる。彼女はそれを少し見て、ベージュのショルダーバッグから黒い名刺入れを取り出す。
「二階堂ユリです。彼のアリバイを証明すれば良いいんですよね?」
「いや、すいません。こちらも仕事でして。お気を悪くさせたなら申し訳ないです」
ユリは少し怪訝な面持ちで田渕を見ている。
「二階堂さん、すいません。こちらへどうぞ」
「お邪魔いたします」
部屋に入ってきた瞬間、この間とは違う香水の香りが広がる。嫌味のない甘い香りだ。
「早速ですが、3日前の夕方ですが……」
「一緒にいました。車でお邪魔したのでドライブレコーダー提出しましょうか?」
彼女は拓哉の横に座って、田渕を睨み付けている。
「ドライブレコーダーですか。確かに動かぬ証拠になりますが、彼と一緒にいたとは言えないですね」
「確か、タイムカードを押されていませんでしたか?」
拓哉はユリの訴えかけるような瞳に吸い込まれそうになる。彼女に恋をした訳ではない。感じた事のない安心感が彼女にはあった。あったと言うより、滲み出ていると言った方がよいだろう──。
「タイムカード押しました。忘れていましたが、トラックにもドライブレコーダー付いていますし、タコグラフも付いています」
「あの運行管理を記録するものですね。分かりました。事件のあった日は会社の事務所にいたという事ですね」
「はい。その日帰ってからテレビのニュースで知りまして」
「桐敷さん、失礼ですが上田カイリさんとは何処でお知り合いに?」
拓哉はユリの視線を感じた。恋人ではないし、友達でもない。昔の流行り言葉で“友達以上恋人未満”という言葉があったが、それにも当てはまらないだろう。いずれにしても、この状況で言葉にするにはかなりの抵抗がある関係だ。
「仕事で知り合いました。それから何度か会いました」
「それは恋人のような関係といったところでしょうか?」
当然、田渕はスマホの解析等も行なっているはずだし嘘は付けない。だが、“セフレ”という言葉がどうしても出せなかった。




