2話
「すいません。何のお構いもできませんが」
「いえいえ、直ぐに済みますので」
拓哉は薄汚れた座布団をシングルベッドの上に投げ捨てて、丸テーブルに田渕を誘導する。田渕は、部屋の隅々を鈍く光る眼光で舐めるように見ている。何もない部屋はこういう時は不利なのか、あるいは有利なのか──。
「すいません、飲み物お出ししたいのですがビールしかなくて」
「お構いなく。勤務中ですので。それよりこちらに来て頂きたいのですが」
拓哉は冷蔵庫を閉めて田渕の向かいに座る。丸テーブルにはエアコンとテレビのリモコンが置かれている。
「早速なんですが、上田カイリさんご存知ですよね?」
「……。はい。驚きました」
『知らない』という選択肢は絶無だ。全てを分かってアパートまで来ているのだから。
「失礼ですが、3日前の夕方6時から7時半の間はどちらへ?」
拓哉はありのままを田渕に言う。下手な小細工などは通用しないし、必要ない。この“ありのまま”というカードも今のところ当てにはならない。圧倒的強者にとって、白を黒に変える事など造作もない事だと知っているからだ。
「会社の事務所にいたとの事ですが、それは誰か証言出来る方はいらっしゃいますか?」
拓哉は口籠る。瑠璃や社長の敏生は切り札にはならない事を知っている。だが、知り合ったばかりの二階堂ユリの名前を出してもよいものか、分からなかった。
「事件、事故、両方で捜査していまして。一応、確認という事でして」
「実は……」
拓哉は、上田カイリとの事を包み隠さず話した。出会いから現在に至るまで全てを──。
「桐敷さん、ありがとうございます。ですが、その話しを聞いてしまうと、我々は痴情のもつれの線も疑わないといけなくなりますが……」
「……既にご存知かと思いますが」
「執行猶予期間である事ですか?」
「……。はい」
「やはり、アリバイを証明して頂ければ話しは早いのですが……」
「いる事はいるんですが……」
「それはどんな関係の人ですか?」
「仕事を依頼に来られた方なんですが」
「その方とのご関係は?」
「パンク修理をした事がご縁で、こちらで配送をお願いしたいと尋ねに来られた方でして」
「その方も事務所にいたんですね?」
「はい」
拓哉は、くたびれた黒い皮の名刺入れから二階堂ユリの名刺を田渕に見せる。




