8話
『そんな……』
その後も様々なニュースが取り上げてられたが、まるで入ってこない。信じられない気持ちと、何故転落したのかが気がかりだった。誰かとぶつかって転落したのか、自らなのか、詳しい事は何も分からない。
『ネットニュースで見た。嘘でしょ……』
瑠璃からメッセージが来た。直ぐに返信する。
『既読にならなかったんだよ。いつも30分以内には返信されていたから』
『帰宅ラッシュの時間帯だったみたい』
瑠璃から間髪入れずに返信が来た。自殺願望のようなものは持っていなかったと思うが、何処か儚さを彼女に感じていた。子供の頃からの事情も詳しく聞いていたし、だからと言って自ら死を選ぶだろうか──。仮に自殺だとすれば、考えられるのは、セフレの関係を清算すると言った事かもしれない。クールな彼女が見せた涙は本物のようだったし、強く引き留められた。やり切れない思いから酒浸りになって、誤って転落したという可能性はかなり高い。いずれにしても、責任は全くないとは言えない。
『何があるか分からないわね。ほんとに怖いわ』
スマホの画面に大きく頷いた。瑠璃の言う通りで、状況は予告なく劇的に変わる。心も身体も追いついていかないほどのスピードで。あの事件もそうだ。起きたら横で血を流して死んでいたし、あっという間に刑務所の中だった。赤の他人の死体を間近で見る事も、刑務所に入る事も、一生涯ない事だと思っていた。だが、実際には冤罪ではあるが10年以上も塀の中で過ごす事になる。人生は本当に何があるか分からないし一寸先は闇だ。
『事件性があるか、これから調べるでしょうね』
瑠璃のメッセージに一抹の不安を覚える。彼女のスマホから、色々と情報を収集するだろう。メッセージのやり取りから何から何まで。
『拓哉のところに警察が来るかもしれないわね』
続け様にメッセージが届く。懸念材料の最上位だ。一瞬、途轍もなく暗い闇に飲み込まれそうになった。また殺してもいないのに、刑務所に入れられるかもしれないという不安、有り得ない事ではない。現に一度、その有り得ないレベルの事が降りかかってきたのだから──。




