2話
「連絡先とか何も分からなくて。トラックの社名覚えてたんで検索しました」
「わざわざありがとうございます。瑠璃、お菓子頂いたからお礼して」
瑠璃が奥から出てくる。初めて見る表情だ。一秒でも早くこの場から立ち去りたいと顔に書いてある。
「……ありがとうございます」
瑠璃は菓子折りを取り、直ぐに奥にある猫の額ほどのキッチンに消えていった。
「すいません。うちの娘でして」
「いえいえ。お若いんですね」
「そうなんです。まだ16歳でして」
「若いっ! とても綺麗なお嬢さん」
黒のカーゴパンツのサイドポケットが揺れる。おそらく瑠璃からのメッセージだろう。直ちにキッチンに来いといった内容だろう。
「すいません。ちょっと伝票だけ整理します」
「おう。ご苦労様」
瑠璃のいるキッチンに向かう──振り返ると、女性と社長が楽しそうに話しをしている。
「ごめん。どういう事?」
瑠璃が両腕を組んで睨んでいる。
「どういう事? こっちが聞きたいっ! あれ、誰よっ!」
「いっ、いや、この間のパンク修理の……」
「それは知ってるわよ。その件でわざわざ来てるんだから。女とか言ってなかったよっ!」
「そうだっけ? だってどうでもいい事だからさ。男とか女とか」
瑠璃にはパンク修理をしたとだけ伝えた。とくに深い意味はない。お昼ご飯に何を食べたかとか、あそこのスーパーの見切りシールが付く時間が遅くなっただとか、その程度の出来事に過ぎない。
「何でわざわざ来るの? このお菓子、代官山で行列の出来るショコラよ」
「そうなんだ。瑠璃、チョコ好きじゃん。良かった」
瑠璃は呆れた表情を見せる。
「拓哉、わざわざ行列にならんでまで買うと思う? ただのお礼で」
「うん。お礼でしょ? まさか、いつも食べてるたこ焼きって訳にはいかないでしょ」
「私、今冗談通用しないから。8000円はするわよ」
「マジでっ!」
いかにも高級な黒と赤が基調の紙袋に正方形の箱が入っている。ワイン色のそれは、封を切るのが勿体ないほどの物だ。
「とりあえずもう一回お礼言うよ。大した事してないのに」
「行かなくていいっ! 何かムカつくほど綺麗よね。足とかめっちゃ長い」
仕事中だろうか、紺のジャケットにスキニーデニムといったラフな格好である。髪型はこの間同様、とても綺麗に巻かれていて、絹のような美しさだ。そんな彼女は何処からどう見ても、お金持ちで気品に溢れている。




