気絶するほどの女
メッセージが届く──至急会社に戻れとの事だ。社長からのメッセージは滅多にない。何かミスでもしたかと思い返してみるが、とくに心当たりはない。ただ、瑠璃との事がバレてしまったのかと思い、道中気が気じゃなかった。
セフレを継続してくれと言われた件について瑠璃に事細かく話した。瑠璃は最初の方は冷静に聞いているようだったが、『怒りが一周した』と言っていた。とても穏やかな顔の奥に見てはいけないドス黒い塊が蠢いているように見えた。瑠璃から言われ事は、得意先等に殺人罪の事をバラされる事、その事で仕事がやりづらくなるんではないかという事だった。確かに、仕事関連で彼女と出会い、運送会社の名前も知っている。続け様に瑠璃は、彼女とのやり取りをスクリーンショットして保存し、メッセージでそれを送れとの事だった。何かの役に立つかもしれないと言っていた。とても20歳下とは思えない頼もしさである。そして、2、3決め事を追加された。一つ目は“髪型”である。刑務所から出てきた時ぐらいの長さに切ってくれと言われた。二つ目は“服装”である。全て瑠璃が用意した地味な服のみを着用してくれとの事。彼女に対して無駄な心配もかけているので言われた通りにしようと思った。
社長の敏生は、二階の事務所に来いと言っていたので、バイクを置き二階へと上がる。日が短くなり、あたりは暗くなり始めていた。
「お疲れ様です」
事務所に入った瞬間、爽やかな柑橘系の香りが漂っていた。一瞬、ホスト時代の事を思い出す。何処かで嗅いだ事のある香りだった。
「お疲れ様です。その節はどうもありがとうございました」
社長と綺麗な女性がテーブルを跨いで座っている。見覚えのある女性だ。
「お疲れ様」
瑠璃が奥から出てきた。テーブルにコーヒーカップを置き、怖い顔でこちらを見ている。
「この間、パンク修理してもらったってわざわざ来てくれたよ」
「ほんと助かりました。これ、また皆さんで食べてください」
彼女は深々とお辞儀をしてこちらを見ている。その顔を見た時、とても懐かしい感じがした。子供の頃、施設で線香花火をした記憶が何故だか分からないが蘇って、胸が苦しくなった。




