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12話

 

 ホスト時代、顧客を納得させる為にある事ない事を並べ立て、誰にどんな嘘をついたかを覚えておく、それらは大事な職務の一環だった。”本音“などは一ミリも伝えた事はないし、信じさせる材料に含んだ事もない。どこかに代わりはいくらでもいるという気持ちがあったからだろう。そして、何よりあくまでも職務であり、”恋愛“ではない。拓哉は、全く別物である今の状況に周章していた。



「3人で話すのが嫌なら嫌でいいよ。ただし……」



 彼女はストローが入っていた紙をロール状に丸めて、ストローに含んだ水を垂らしながら言う。



「ただし?」


「今からいつもの場所に行けば、無茶は言わない」



 どうしても愛欲の世界に引きずり込みたいようだった。身体を交わせばなんとかなると思われている事自体、瑠璃との事を軽く思われている証拠だ。



「それ自体無茶だとは思わないの? せめて会って言うべきと言われたから来たんだよ」


「引き留める為ならどんな手でも使うわ。母親が唯一私に教えてくれた事よ」


 水を含んだロール状の紙が膨張して膨らんでいる。それを見て、いかがわしい事を想像させようとしているようだった。



「とにかく、裏切れないよ。ようやく手に入れたものを全て失う」


「あなたが手にしたものって何? JKの肉体だけでしょ?」


「違うよ。安定してお金も入ってくるし、過去の事を知っていも受け入れてくれる人達がいる」


「あのね、人間の表裏を一番見てきた人でしょ? 目を覚ましなさい。安定って言っても微々たる収入じゃない」



 彼女の言う事は理解できる──この幸せがいつまで続くのか分からない。今日の事がバレて、関係が拗れるかもしれないし、瑠璃の事が敏生にバレて追い出されるかもしれない。だが、瑠璃に対して不義理をしない限り大丈夫だという得体の知れない自信はあった。



「給料日に安い居酒屋で飯を2人で食べるだけで幸せなんだよ。分かってくれよ。関係を続ける事は出来ないし、もう会う事も出来ない」


「それじゃ、手切れ金ちょうだいよ。500万でいいわ」


「あっ、ある訳ないじゃないか。50万もないよ」


 彼女は小馬鹿にしたような目で見つめる。



「だから、あなたは関係を続けるしか選択肢はないの」



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