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10話

 

 言葉に詰まる。16歳のまだ少女と言っていい娘を貪るように抱いているとは口が裂けても言えないが、深く被られたベースボールキャップの下から全てを見透かしたような眼差しを向けられるとなす術もない。


「愛し合っているから自然だと思うけど」


「はっ? 愛してる? 正気なの?」



 涙で化粧が剥がれ落ちた顔で拓哉に詰め寄る。来店時は空きが目立っていたが、あっという間に四方八方満席になっていた。



「ほんとキモいよっ! 私には一度も『愛してる』って言ってくれなかった」



 普段の彼女の声はそこまで通る声ではない。だが、騒がしい店内がほんの一瞬静まりかえるほど響き渡った。



「でも、好きな人が出来たら言ってって」


「言ったわよ。それが? 何? 馬鹿なの? そんなの本気で言う訳ないじゃない」


「いや、我慢出来なかったんだ」


「何を我慢? だから、私で処理してたじゃないっ!」


「いや、その我慢じゃなくて」



 拓哉の背中に冷や汗が伝う。どんどん大きくなる彼女の声に周りも聞く耳を立てているように感じる。簡単に考えていた。セフレとはそういうもんだと思っていたが、相手はそう思っていなかったのか──。


「お互いに好きな人が出来れば終わりって」


「だから片方だけじゃん。お互いじゃないじゃん」


 完全な屁理屈だが、ここまで居直られると次の言葉が出ないというより出せない。お互い、ほぼ同時期に好きな人が出来るなんて事は確率的にとても低い。いや、”あり得ない“と言ってもいい。そんな天文学的数字を叩き出さないと別れる事は出来ないのか──。


「私に好きな人が出来ればおあいこという事で別れましょうよ」


「おあいこ?」


「そうよ。私だけ惨めじゃない。色々身体も開発されちゃったし」



 生唾を飲んだ。彼女との情事が一瞬頭の中を巡る。



「今、想像したでしょ? 別れられるの? あんな事してあげられる人、他にいないわよ」


「……」



 悪魔の囁きのように聞こえる──彼女とのセックスは、今まで経験した事のない快楽であった。身体の相性がピタリと合う。それは口にはしないが、お互いがそう感じていたのは間違いない。彼女は不敵な笑みを浮かべる。まるで手招きをして待っているかのように。



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