9話
ファミレスの中に入る。国道沿いでよく見かけるチェーン店だ。子供の頃、ホスト時代、全く食べに行った記憶がない。子供の頃はミックスグリルに憧れていた。ハンバーグ、海老フライ、照り焼きチキンと色々楽しめるからだ。食べた事は一度もないし、母親に連れて来てもらった事もない。そんな些細な事でさえ叶えてもらえない境遇だった。施設にいた頃に何度か連れて来てもらって、ミックスグリルを食べた時は涙がでるほど美味しくて、感動した事を覚えている。そんな思い出に浸りながら、ファミレス内にいるであろう彼女を探した。
「お客様、お一人様でしょうか?」
「いや、連れが来ているはずで……」
拓哉は店内を見渡す。意外に空いていて直ぐに彼女を見つける事が出来た。
「すいません。見つけたんで」
「分かりました。後ほど伺います」
目が合ったが彼女は直ぐに俯く。いつもより赤のベースボールキャップを深く被っているように見えた。
「ごめん。待たせたね」
「……いいの。何か食べる?」
彼女は顔を見ようともせず、メニュー表を開いた。
「いや、アイスコーヒーでいいよ」
「分かった」
彼女はメニュー表を閉じてテーブルのブザーを押す。店員が直ぐに駆けつけた。
「アイスコーヒーで」
「かしこまりました。他にご注文はよろしかったでしょうか?」
『他にご注文は?』とこの『よろしかったでしょうか?』に嫌悪感を感じるのはもうおじさんである証明なのかもしれない。
「あのさ、欲しけりゃまたブザー押すから!」
「かしこまりました」
彼女が烈火の如く店員に捲し立てた。
「あの日本語ムカつくっ! 欲しけりゃ言うわよ!」
「良かったよ。あれに苛立つのはおじさんの証とかネットで見た事があって」
「私は嫌。ウザいし」
彼女は水滴だらけのアイスティーのグラスを使い捨ての紙おしぼりで拭いている。
「メッセージでも言ったけどさ……」
「あの子でしょ? スナックまで隠れて尾行していた」
「……。そっそう」
彼女は水滴を拭いたおしぼりを投げつけた。
「犯罪よね? まさか、セックスとかしてないわよね?」




