3話
「連絡先交換して頂けますか? お礼もさせて頂きたいですし」
「いや、お礼をして頂くほどの事でもないですし、携帯をお持ちではなかったのでは……」
「そっ、そうだった。私、ちょっと抜けている所がありまして」
彼女は頭を掻きむしっている。所謂“天然”と言われる人種だろう。街中で見かけても気軽に声を掛けられないほどの美人だ。
何処かで会った気がする──これほどの美人だと、忘れないはずだがどうしても思い出せない。
「すいません。何処かでお会いした事ありますか?」
「やだ、ナンパですか? ないかと思いますが……」
「すいません。変な事言いまして。暗くなると街灯もほとんどないので早く帰ったほうがよいかと思います」
「ありがとうございます。助かりました」
彼女は高級車に乗り込み、その場から立ち去った。漂う彼女の残り香が、稲刈りの済んだ藁の香りと混ざり、突然フラッシュバックした。ラブホテルのベッドの上で冷たくなっていた彼女の事だ。理由は分からない。考えてみると、何処となく似ている気がしたがここで再会するはずもない。生きていれば、同じぐらいの年齢ではあるが、初めて会った気がしない事が妙に引っかかっていた。
『拓哉、着いた?』
スマホにメッセージが届く音で我に返った。
『ごめん。パンクして立ち往生している人がいて。今から向かいます』
「慌てずにね。時間はまだあるから』
拓哉は先方にダンボールのシートを卸して東京へと帰った。
「お疲れ。どうだった? 分かったか?」
「はい。全く迷わずに着きました」
会社に着いたら夜の7時を少しまわっていた。敏生は缶コーヒーを拓哉にゆっくりと投げる。
「ありがとうございます」
「ブラックだよな」
「いや、何でも構いません」
「パンク修理したんだって? 瑠璃が言ってたけど」
「そうなんですよ。田舎道にポツンと」
「きついよな。パンク修理ぐらいでレッカーは呼べんだろうし」
「女性でして、全くそういった事は知らない感じでした。おまけに携帯もないし」
「それはどうしようもないな。お前がいなければかなりの災難」
敏生と久々に話しをした。ここ2週間ほど顔を合わせていなかった。少し見ない間に髪型が劇的に変わっていた。所謂“イケオジ”と言われるカテゴリーに属するぐらいに──。




