2話
瑠璃と関係が深くなればなるほど敏生への罪悪感が増す。20年苦の付き合いで、ホスト時代、刑務所に入っていた時、そして現在と敏生がいなければ今のこの状況は考えられない。仕事も与えられ、雀の涙程度だが貯蓄もできるほどの給与も頂いている。瑠璃と男女の関係になる事は敏生に対しての最大の裏切りと言えるが、“生きる”という事は衣食住さえあれば良いというものではない。“生きがい”がなければ息をしているだけだ。拓哉にとっての生きがいは、中距離トラックに乗る事ではなく、瑠璃を愛する事だと気付いた。他人を愛する事こそが生きる源だと──。
10月の田園風景は全国的にも稲刈りのピークだ。黄金色のそれらを四方八方に感じながら、田舎道をひたすらナビ通りに進む。まだ少し日差しが強く感じる事もあるが、確実に季節は変わろうとしていた。目的地まであと6キロのところで、白い高級セダンが路肩に寄せてハザードランプを照らして停まっている。見渡すかぎりの黄金色、何とか先に進めそうだが、女性が後ろのタイヤをしゃがみこんで眺めていた。拓哉はトラックを停めて白い高級セダンに近づく。
「どうかされました?」
「ごめんなさい。邪魔ですよね」
歳の頃は30前だろうか、タイトな黒いスーツの上下を着こなす彼女は、見た目は夜の仕事をしているかのように派手だが、気品に溢れていた。肩よりやや下まである栗色の髪の毛は綺麗に巻きが入っていて、美容院に置いてある雑誌のモデルのようである。
「パンクですか?」
「そうなんです。携帯を取引先のトイレに忘れてきたみたいで困ってまして」
「スペアタイヤあります?」
「すいません。そういうの全然分からなくて」
「トランク開けてもらえますか?」
「はい」
拓哉はトランクからスペアタイヤを取り出して、付属の工具でタイヤを交換した。
「終わりました。ガソリンスタンドか何処かで修理してもらってください」
「えっ! もう終わったんですか? 凄いっ!」
「東京ですか?」
「えっ! 何で分かるんですか?」
「いっ、いや、そのナンバープレートが品川ってなってるから」
「あっ、そうか。そうですよね」
拓哉は照れ笑いをする彼女の顔を見て、何処で会ったような気がしていた。




