因縁因果
拓哉は静岡にいた。瑠璃との旅行ではない。10月末から中距離の配送の仕事をしている。北関東、神奈川、静岡エリアである。
都内のバイク便をこなしながらの二足の草鞋──業務の内容は配送センターで段ボールのシートを積み込み、週2回のルート配送をしている。以前にグアンが言っていたように、トラックの配送は色んな意味で気分転換になっていた。都内をバイクで移動するより何倍も目の保養になる。各地の景色や特産品、SNSで有名な飲食店などは昼食等で立ち寄る事もある。そんな生活をしていると、まるで過去の事がなかったかのような錯覚に見舞われる。
『拓哉、場所分かったかな? 運転気をつけてよ』
会社のスマホではなく所有するスマホにメッセージが入る。静岡方面は何度か来ているが、今回の依頼先は初めてだ。
『ナビがあるから大丈夫だよ。そっちはどうだい?』
トラックのナビを見る──あと十数キロで目的地と記されている。シフトノブにコンビニのビニール袋をかけ、ゴミ箱代わりにしている。先程道の駅で購入したご当地の“あみ焼き弁当”の空箱が入っている。カップホルダーには静岡ならではの緑茶のペットボトルが置かれている。半分ほど飲み干したそれは、さすが静岡のお茶だと感じるほど香りが豊かに感じた。
『バイク便の仕事が2件増えた。私が行くわ』
バイクの中型免許を取得した瑠璃──少し心配になったが、意外に運転が上手い。センスがあると言ったほうがいいのか、様になったいた。
『気をつけて。あと、お土産にあみ焼き弁当を買ってあるから』
あみ焼き弁当──豚肉を秘伝のタレで味付けして、ご飯の上にのせた弁当。
『ありがとう。楽しみ。気をつけて』
瑠璃と付き合って一か月以上経つが、20もの歳の差がある事を感じた事はない。無理して大人びているそぶりもない。彼女との時間はとても特別で、1日でも声を聞かないと落ち着かないのだ。
『瑠璃も気をつけてよ。愛してるよ』
面と向かって言うにはまだ照れ臭い言葉ではあるが、メッセージだと気軽ではないがハードルは下がる。
『私もよ。早く会いたいわ』
今朝の点呼の時に会ったきりである。時間にすればそんなに経っていないが、随分前のように感じていた。




