10話
「ちょくちょく“多分”ってのが凄い気になる。本当に私を愛してるの?」
拓哉は口籠る──その時点で気持ちの半分も伝わらないどころか、相手に疑念を抱かせるだけである事は重々承知の上だが、言葉に出来ない。ホスト時代なら、どこにでも転がっている薄っぺらな愛の言葉を並び立ててその場を取り繕っただろうが、納得させる言葉が思い浮かばなかった。
「ごめん。愛した事がなくて。嘘ならいくらでも言えるんだけど……」
「……」
瑠璃は拓哉に抱きつく。『愛してる』と言われた事よりも、嘘を付けないと言う言葉に真実を見たからだ。
「ごめん。拓哉、私も愛した事がないの。でも、確実に言えるよ。愛してるわ」
「……。なっ、情けなくてごめん」
「私達、本当に似た者同士よね。そう思わない?」
「……。確かに。堂々と表道を歩けないけどそばにいて欲しい」
瑠璃は目に涙を浮かべる。何度も流した涙とは全く異質なものだと感じながら──。
「何で泣いてるの?」
「……。いいじゃない、表道を歩けなくても。2人で裏道を歩きましょう」
「うん。ごめん」
拓哉の目にも熱いものが込み上げる。生きているという実感を瑠璃となら取り戻せると思った。いや、そう信じたかった。不条理なこれまでの人生を忘れて、瑠璃と幸せになりたい──。
「初めての彼氏かも。おじさんだけど」
「ごめん。もっと早く出会ってたかった」
「それは嫌。ホストの餌食だもの」
「確かに。ボロ雑巾のように捨てたかも」
「捨てたら殺すわよ。いや、違うかも」
「どういう事?」
「捨てた原因の元を殺すわ。何の躊躇もないと思う」
一瞬真顔になった瑠璃の眼差しは、呆れるほど澄んだ瞳だった。ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそうなほどに──。
「何だかお腹が空いたわ! 全部拓哉のせいなんだから」
「ラーメンでも食べに行こうか?」
「ずっと食欲なくて痩せたわ。おかげで胸が小さくなった。責任とってよ」
「揉んだら大きくなるかも」
「スケベ」
拓哉は瑠璃にキスをする。ホスト時代の、いかに濃厚なキスで虜にするかだけの策略的なそれではなく、薄皮一枚触れただけの優しいキスだったが、この世のものとは思えないほど柔らかく、そして愛おしいものだった。




