9話
「1回目で大当たりだよ」
「私、いくら使った事か」
「あげるよ。あげたいんだ」
「……いらない」
「何で? 欲しがってたじゃない」
「……いらないから」
今にも消えてなくなりそうな瑠璃の声に、気持ちを抑え切る事が出来なかった。彼女は一生分の傷をその若さで味わったと言っていいほど壮絶な人生だ。これ以上、寂しい思いをさせてはいけない──。
「……愛しているんだ。たっ、多分」
「多分って何よっ! ていうか、電話で言う事じゃないしっ!」
「じゃあ、目の前で言ってやるよ! 愛してるって。多分だけど」
久々に瑠璃の笑い声を聞いた。乾き切ったスポンジがあっという間に水を吸収して潤ったようなそんな感覚が胸を走る。心が満たされるというのはこういう事だと言わんばかりに──。
「何処にいるのっ! 目の前で聞いてあげるっ!」
「商店街のガチャガチャコーナー」
「20分で行くから」
「そんな時間かからないだろ?」
「女の子は準備が大変なの! 待ってて」
「分かった。待ってる」
電話を切った瞬間、心臓が飛び出しそうなほどドクンドクンと激しく打つ。息苦しいほどのそれは、何故か心地よく、生まれて初めて生きている事を実感できた。拓哉はこれが恋であるとか、愛であるとかもうどうでもいいと思っていた。今一番会いたいのは瑠璃であるし、得体の知れた蟠りを一秒でも早くうめたいと感じていた。残暑厳しい9月の夜、緊張しているのか汗が滲む。瑠璃が来るであろう方向に目を凝らしていた。
「よっ! 女たらしさんっ!」
「痛っ!」
瑠璃は拓哉の背中に全体重をのせて引っ叩いた。汗でびしょ濡れの背中を叩いた音がアーケード内に響きわたる。
「痛っ! てか、びっくりしたっ!」
「何が痛いよっ! 拓哉に負わされた傷に比べたら何て事ないわよっ!」
いつものピンクのラインが入ったジャージ姿に涙が溢れ落ちそうになった。変わらないものが変わらずにある幸せ、当たり前な事など何一つない。いつか壊れるか、壊されるか、そんな儚いものを守る為に人は生きてると言っていい。
「ごめん。あれが最善の策だと思って」
「一度しか会った事のない女とやる事が? 拓哉は馬鹿よね。大馬鹿だわ」
「ごめん。でも、瑠璃を愛してるんだ。多分……」




