5話
「アカクナッテル」
彼女は顔を赤らめている。ホスト時代からの習性というか、能力と言っていいのか、自分に気がある事人はどんな些細な動きでも見極める事が出来た。会話の節々で、髪の毛を後ろで束ねているにも関わらず、両手で髪の毛を整える行動に少しでも綺麗に見せたいという欲求が漏れていた。
「ありがとう。美味しかった。とりあえず、グアン、焼き鳥適当に焼いてもらう?」
「ハイヨ」
「焼き鳥の盛り合わせでいいですか?」
「よろしくお願いします」
彼女は振り返り、カウンターの中に入っていった。その時の残り香がとても爽やかで、刑務所の中では逆立ちしても拝めないものだった。娑婆の空気ほど心地の良いものはない──目を伏せたくなるものは沢山あるが、あの場所に比べれば全て天国である。
「トリアエズカンパイ」
グアンとジョッキを交わした。とてつもない勢いで飲むグアン。あっという間に飲み干してしまった。
「オカワリクダサイ」
「はいよ!」
グアンはいつも笑顔だ。険しい顔をしているところを見た事がない。背は低いが、ガッチリした体型で、いかにも小力がありそうなそんな男だ。実際、力持ちで、荷物の積み下ろしも誰よりも早いと聞いている。
「チカラシゴト、ビールウマイ」
「グアンは一番厳しい部署だもんね」
長距離トラックでまともな睡眠など皆無な日常──彼にとっての幸せとはなんだろうとふと思ったが、酒の席で語る最初の話題ではない。他人の幸せを考えている余裕などない。今は何事もなく執行猶予期間を乗り越える事が先決である。だから、頭の中を支配している未成年の女の事など安い酒で洗い流せばいい──。
「タクヤ、イケメン。ボクブサメン」
「そんな事ないよ。グアンはカッコいいよ。それは間違いない」
「ホント! サイコー」
その国によって様々ではあるが、グアンは決してイケメンではない。だが、いつも人を幸せにするその笑顔は間違いなくイケメンと言っていい。
「焼き鳥お待ちどう様」
抹茶色の角皿に12本の焼き鳥が盛られている。タレと塩、変わり串、ささやかな幸せではあるが、刑務所の中では決して味わえないものだ。




