3話
拓哉はスマホを取り出して久々に瑠璃に電話を掛ける。スマホを右耳に貼り付けて瑠璃が出るのを待つ。
「……もしもし?」
「お疲れ様。今大丈夫?」
「……。大丈夫じゃない」
「ごめん。忙しい?」
「忙しくない。今買い物してるから」
忙しくないと言っているのに、直ぐに電話を切ろうとする瑠璃を強引に繋ぎ止めた。
「グアンとさ、居酒屋に行こうと思うんだけど行かない?」
「未成年なんで。お二人でどうぞ」
そっけなく電話を切られる。拓哉は真っ暗になったスマホの画面を見つめていた。
「ドウシタ?」
「うん。二人でどうぞって」
「ソウナンダ。イキマスカ」
グアンは使い古された黒いリュックを担ぎ、外に出ていった。拓哉も後を追う。瑠璃と久々に話しが出来て気持ちが高揚したが、同時に寂しさが襲う。瑠璃を深く傷つけてしまった事、謝るタイミングも方法も思いつかない。あの日、2時間も蒸し暑い中待たせた。中で何を話し、何をしていたかの説明もしなかった。その時の瑠璃の表情が未だに焼き付いている。久々に女を抱いた直後にも関わらず、瑠璃を愛しく思った。自らが引いた境界線を容易く越えたくなるほどだ。だが、どうする事も出来ない思いを閉じ込めるしかなかった。身を引く為にあの日関係を持ち、今も続いている大人の関係。“大人の関係”と言えば聞こえは良いが、ただのセフレである。行為の後、チェーン店のカレーを食べて、性欲、食欲を満たすだけの関係だけど、会えば会うほど瑠璃の事が頭に浮かんだ。
「チカイネ。ニフン」
グアンが防水の銀の腕時計を見せる。ストップウオッチの機能を使い、何分で着くか計っていた。
「グアン、カッコいい時計だね」
「ソウ。アリガトネ」
グアンの言う通り、あっという間に着いた。居酒屋『鳥常』。前にもグアンと来たお店だ。安くて美味しい全国チェーンのお店で、赤いテントに黒い文字で『鳥常』と書かれている。グアンは横開きのドアを開けて店内に入る。その後ろをついて入った。
「いらっしゃい!」
店内はL字カウンターと、こあがりの座席が三つのお店だ。カウンターの上にはガラスケースがあり、串に刺さった生の焼きとりと野菜が丁寧にならんでいる。




