2話
髪も出所してから一度も切っていない。真ん中で分かれるほど伸びた髪を両手でかきあげる。額にも3本のシワが両目を寄せるとより深くできる。そんな事を気にした事などほとんどないが、時の流れは確実に若かりし頃の全てを奪い去って行く。拓哉は現実を覆い隠すように、額のシワを前髪で隠した。
男だけしか使用しない更衣室は何とも殺風景で、テレビの一つもない。あるのは、錆が目立つロッカーが三つと、折り畳みの椅子が二つ、黒いプラスチック製の丸いテーブルだけだ。テーブルの上には銀の灰皿と、グアンのタバコとロザリオが貼り付いているジッポライターが置かれている。
「スイマセン」
シャワールームからグアンが出てくる。ハンドタオルで適当に拭いた身体は水滴だらけで、びしょ濡れと言っていいほどだ。
「タオル、トッテモラウ」
拓哉はグアンの開いたロッカーに掛けられている赤いバスタオルを投げた。
「アリガトネ。タクヤハイル?」
拓哉は首を横に振る。そこまで汗はかいていないし、居酒屋から帰ると色んな匂いが身体に付くから、帰ってからシャワーを浴びるつもりでいた。
「シャチョウ、サイキンミナイ」
「何処か出張とか言ってたよ。栃木だったかな」
「オンナトリョコウ」
「それはないよ。だって平日だよ?」
「ヤスミ、ナンデモタカイ」
「どういう事?」
グアンの言う通り、女と温泉に行くにしろ何処に行くにしろ平日の方がよい。土日祝だと、色々と割り増しされるからだ。だが、知る限りでは敏生はそんなケチな男ではない。
「いや、やっぱりそれはないよ。瑠璃ちゃん、一人になるし」
「モウオトナ」
グアンは黒のタンクトップと迷彩のワーキングパンツに着替えていた。シャツはこのタンクトップと、くたびれた白いブランドのシャツ、あとは『根性』とプリントされた黒いシャツだけだ。迷彩のズボンも相当年季が入っていて、所々色褪せている。
「ルリ、ヨブ? サイキンワラワナイ」
「居酒屋に呼ぶの?」
「オサケダメ」
拓哉は良い機会だと思った。瑠璃と仲直りする絶好のチャンスであると──。
「ちょっと電話してみるよ」




