6話
拓哉はその訳が無性に気になった。彼女の顔を見ていると、まるでそう仕向けられたような気にすらなっていた。
「『何で出来ないの?』って聞かないの?」
数秒の沈黙だったが、先の問いかけで勝った気がした。こちらから聞いてしまうと、ミイラ取りがミイラになってしまう危険性があったからだ。彼女は少し照れ臭そうに聞く。
「ちょっと、何で聞かないの?」
「話したいの?」
「話したいけど、結構重い内容」
彼女はそう言いながらも冗談混じりに話す。とてもじゃないけれど聞いていられない内容であった。何故、ほとんど初めて話す相手にここまで話すのか理解出来なかった。掻い摘むと、17歳の時に友達に裏切られて強姦されたという内容だ。友達にどう裏切られて強姦されたか吹っ飛んでしまうほど強烈で、これほど容易くイメージ出来てしまうのは彼女の話術のなせる技なのか、いずれにしろ、気の毒で嘔吐しそうになった。
「キツくない?」
「……。吐きそうなぐらい。痛いのレベルじゃないよね?」
「子供産めない身体になったからさ」
「……。何と言っていいか……」
「何も言わなくていいよ。でも、怪我の功名ってあるのよ」
「どういう事?」
「避妊とかしなくていいからよ。需要があるのよ」
強姦でも相当重い話しだが、その時に殴る蹴るの暴行や、虐待を受け、子供が産めなくなってしまった。人間はそこまで残酷になれるのかと背筋が凍った。
「需要?」
彼女は不的な笑みを浮かべる。タバコは安い銀の灰皿に置き去りのままで、長い灰が綺麗に伸びている。
「あなたも避妊しない顔だよね。分かるのよ」
拓哉は下を向く。確かに避妊などした事がなかったからだ。施設のおばさんとのセックスもした事がなかった。まともに性教育を受けた事もない。何事も最初が肝心だと言うが、まさにそれで、“避妊する”という概念がなかった。
「会社の重役とか、立場のある人にはとくに需要があるのよ」
「妊娠の危険性のない愛人って事ですか?」
「良いキャッチフレーズじゃん。そう言う事。でも、逆にスリルがないとか言われて直ぐ飽きられちゃうのよ」
耳を塞ぎたくなる──人間の残酷さ、欲の深さ、分かっていたつもりでいたが、ここまでくるともう“人間”ではないと。




