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4話

 

「そんな話し、何で一度しか会った事のない相手に言うんだ?」


「感覚的なものよ。何度会っても分かり合えない人もいるし、分かりたくもない人もいるわ」



 赤のベースボールキャップをL字カウンターに置き、ラーメン袋の封を切る姿に母親の姿を照らし合わせた。似ても似つかない2人、貪るように共通点を探していた。無意識のうちに。首元まである茶色の髪の毛をかきあげる彼女はとても美しい。目鼻立ちを整っていて、メイクも最小限、自分がどうすれば綺麗に見えるかを熟知しているような感じを受ける。Tシャツから透けて見える黒いブラジャーの線もわざと見せびらかし、欲望を駆り立てる罠のようだ。



「あなた、人を殺したんでしょ? 記事を見たわ」


「……。殺しちゃいない。殺してなんかない!」


「あなたには人を殺せないわ。おそらく、仕向けられたのね。出る杭は打たれるものよ」


「出る杭は打たれる? どういう事?」


「偶発的なものか、意図的なものかは知らないけど、上に上がれない、上がってほしくないといった気の流れみたいなものよ」



 彼女の言っている事を理解出来る容量がなく歯痒く感じた。



「私は見た訳じゃないし、あなたの言う事が本当だと思う。思うけど……」



 奥歯にものが挟まった言い方に少し苛立ちを覚えた。それも彼女の手の内かもしれない。とにかく、全てが罠であると思っていいと瑠璃に出発前に言われた。完全に彼女のペースで進行しているこの夜から早く逃れないと取り返しのつかない事になると感じていた。



「はっきり言ってくださいよ。犯罪者である事には変わらないと」


「いや、違うのよ。そういう事じゃなくて」


「では、どういう事ですか?」


「あなたは、人を狂わす何かがあるわ。独特の色気みたいなものかな」



 若い頃から何度も言われた事がある台詞だ。瑠璃にも言われたそのフェロモンは、自分では感じる事は出来ないし、異性にしか嗅ぎ分ける事が出来ないものなのかもしれない。



「そういう人、何人か知ってるけど、みんな短命だったわ」



 長生きしようなどとは思っていない。人生を立て直すにはかなりのエネルギーがいるだろうし、そんな力も今はない。ただ、静かに日々を過ごしたかった。ただそれだけだったのに、彼女との出会いで心がとても騒ついて落ち着かないのだ。

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