16話
年齢のせいと思っていた。とても物腰が低く、後輩思いの先輩だが、時折見せていた尖った目付きがなくなっていると感じていた。ホスト時代、従業員同士の喧嘩の仲裁も最初は優しく止めてくれるが、気づいたらその渦の中心にいたなんて事はザラだった。とても情熱的で曲がった事が許せない人、それが敏生の印象だった。
「前も言ったかと思うけど、女がいると思うんだ。私的には全然いいんだ。むしろ、喜ばしい事だし」
「そうだよね。社長も歳とったけど男だし」
「私の事にも寛容になってきたんだ」
「例えば?」
「ちょっと前なら、少し化粧したぐらいでもめちゃくちゃキレてたんだ。お前は変に目立とうとするな! とか」
「事務所にも割と色んな人が出入りするもんね」
「拓哉が来る前、業者の人にご飯誘われてるところをお父さんが見ちゃって大変だったんだから」
拓哉はホスト時代の敏生を思い出した。あの頃なら間違いなく血祭りにあげていただろうと。
「もう、出入り禁止にしちゃって。結構なお得意さんだったのに」
「若い人?」
「42歳って言ってた。バツイチで」
「いや、普通に犯罪じゃない?」
「犯罪じゃないでしょ? えっ! 犯罪なの?」
「いや、親子ほど離れてんじゃん?」
「見た目若いから42とか思ってなくて」
「怖いもの知らずだな。社長に殺されるよ」
「お父さん、喧嘩強いの?」
拓哉は悪戯に天を仰いで大袈裟に言う。
「修羅だね。正直、キレたら手がつけられないタイプ」
「そうなんだ。だから私もキレたら見境ないんだ」
「そうなの?」
「ちょっと異常かも。拓哉を傷付ける奴にはとくにそうなる自信ある」
目が笑っていなかった。嬉しい反面、これ以上は踏み込む事は出来ないと感じた。時速100キロで走る高速道路で、急ブレーキをかけるぐらいの事を強いられるが、引き戻さないと取り返しがつかなくなる事は用意に想像出来た。拓哉自身、この気持ちが恋なのか、或いは、事実を理解し信じてくれている唯一の異性に対する依存なのか、分からないでいた。
「ごめん。メールが来たみたいだ」
バイブ機能にしていたスマホが揺れた。長方形のガラスがはめ込まれたテーブルの上でかなり大きな音を立てている。
「誰なの? 拓哉のアドレス知ってるなんて。悪戯?」
拓哉は恐る恐るメールを開いた。




