12話
口籠る瑠璃を見た時、すぐに質問を撤回しようと思ったが知りたい欲が上回っていた。拓哉は水滴でびしょ濡れになった麦茶を飲む。
「……。目立ちたくないの」
蚊の鳴くような声が瑠璃から漏れる。プライベートではオシャレの一つもするんだろうと思っていたが、この間、瑠璃と敏生の3人で夕食を食べにステーキハウスに行った時もジャージだった。
「目立ちたくないか。さっきの女子高生とは真逆だな」
瑠璃が『女子高生』という言葉に反応したのか拓哉を睨みつける。
「女子高生て何?」
「いや、さっきたこ焼き屋で女子高生がいたから」
「ふーん。可愛いかった?」
ホスト時代の癖が顔をもたげて、『瑠璃ちゃんの方が可愛い』と言いかけたが歯を噛み締めて押し留める。
「普通じゃないかな」
「話す気が失せた」
「何で?」
「何かウザい」
瑠璃はたこ焼きを二つ連続で口の中に入れた。喉につっかえたのかむせこんでいる。
「大丈夫?」
拓哉は半分以上減った瑠璃のコップに麦茶を入れて渡す。
「ありがと」
瑠璃は右手で胸当たりを叩いた。その振動で両胸が揺れていた。拓哉は目を逸らす。見てはいけないものを見てしまったような気になったからだ──。
「拓哉には見せちゃう」
その言葉に心臓が“ドクン”と強く打つ音が拓哉の胸に響いた。たかが女性の胸ぐらいでと言い聞かせてみたが、その高鳴りを抑える事が出来なかった。
「えっ……」
瑠璃は長袖のジャージの腕をまくった。絵の具では出せないとても綺麗で白い両肘が姿を見せる。そして、それは止まない雨を見上げた空のようだった。
「ひどいでしょ?」
「……」
こんなところにも瑠璃の几帳面さが見え隠れしていた。等間隔に刻まれた夥しいリストカットの跡だ。それはかなり深く彫り込まれているようだった。躊躇い傷のレベルではないように見えるそれは、瑠璃の心の傷の深さであり、広さだと感じた。
「醜いでしょ?」
拓哉は俯いて首を横に振る。何故だか涙が溢れた。顔を見られたくないから、咄嗟に下を向いた。震える拓哉の肩を見た瑠璃も声を上げて泣いた。




