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11話

 

 事務所に戻ると、瑠璃がパソコンと向き合っていた。掛け時計の針は6時半を少しまわっている。グアンさんが少し前に名古屋から帰ってきたらしく、この間の飲み会のお礼で名古屋のえびせんをお土産に買ってきてくれていた。


「社長は?」


「飲み会だって。最近よく出かけるよ。多分女じゃないかな」


「そうなんだ」


「たこ焼きありがとう! めちゃくちゃ嬉しい。もう少しで終わるから一緒に食べよう」


「うん」



 瑠璃が事務作業をしている間に、くたびれたクリーム色の冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いだ。デスクは2つしかない。少し立派な社長のものと、リサイクルショップの外に放り出されて売られていそうな瑠璃のデスクは、綺麗に整頓されている。社長のデスクはあまり業務に関係ない雑貨類が散乱していてパソコンを広げるスペースもない。



「終わった。待たせてごめんね」


「全然。ごめんね。夕飯前に」


「助かったわ。お父さんいないしどうしようかなって思っていたところなの」


「社長の分、どうしようか?」


「拓哉、16個食べてよ」


「食べられるかな。昔から少食なもんで」


「美味しいわ! 誰かと食べるとより美味しく感じるわ」



 誰かと一緒にご飯を食べると幸せな気持ちになる──ある意味特別な境遇の2人だからこそ、そんな些細な事でもスペシャルに感じる事が出来たのだろう。拓哉と瑠璃は傷跡を舐め合うようにかけがえのない時間を共有していた。拓哉はあの頃の贖罪の意味も込めて瑠璃に優しくしていた。善行を積む事により少しでも償いになるのではないかと考えていた。直接本人に返すのが筋だが、もうこの世にはいないし、時を戻す事も出来ない。


「拓哉、ソース付いてる」



 瑠璃はテイッシュを拓哉に渡す。弾けるような笑顔の奥に、忌々しい過去がある事など微塵も感じさせない、ごく普通の今時の若者である。拓哉はずっと疑問に思っていた事があった。それは、瑠璃がいつも同じ紺色でピンクのラインが入ったジャージしか着ない事だ。拓哉は爪楊枝を置いて瑠璃に聞く。



「瑠璃ちゃんさ、ジャージ好きなの?」


「……」


「いや、初めて会った時からずっとその格好だなって」


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