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9話

 

 見知らぬ電話番号がディスプレイに表示された。仕事を終え、自炊かスーパーで見切品を買うか迷っていた時だった。拓哉は折り返し電話をかけた。



「私よ。覚えてる?」



 声に聞き覚えはあったが思い出せない。拓哉は聞く「どなた様でしょうか?」



「私よ。封筒を届けてくれたでしょ?」


「思い出しました。何故番号を?」


「登録しておいてって言ったじゃない」



 確かにそんな事を言っていた事を思い出した。ただ、ベースボールキャップの印象が強すぎて顔が出てこない。



「携帯貸してって言ったじゃない? あの時にあなたの携帯で私の携帯にかけたの」


「そうですか。それでどう言ったご用件で?」


「ご用件じゃないわよ。待てど暮らせど電話が鳴らないんだもの」



 拓哉は直感的に思った。『これはややこしい話しになるんじゃないのか』と。



「すいません。まだまだ今の仕事、生活になれなくて」


「転職したばっか?」


「そんなところです」



 電話を切るタイミングがない。弾丸のように喋る彼女の僅かな隙を見計らっているが上手くいかない。


 拓哉は商店街の脇に入る。偶然にも瑠璃が奢ってくれたこ焼き屋が目の前にあった。商店街はよく利用するが、行き慣れたスーパーやコンビニしか行かないから驚いた。



「どうしたの?」


「いえ、すいません。まだ仕事中でして」



 拓哉はそう言って電話を切った。瑠璃にたこ焼きを買ってあげようと思ったら、胸の奥が締め付けられた。心地良いその痛みは恋かどうかは分からないが、瑠璃の喜ぶ顔がはっきりと浮かんだ。拓哉は、女子高生が3人ならんでいる最後尾についた。



「あんたほんとイケメン好きよね」


「もうね、誠也以外は男じゃないし」


「てか、ホストじゃん。利用されてるだけじゃない?」



 耳の痛い話しが女子高生から聞こえてきた。拓哉は顔を伏せる。10年以上前の自分が色濃く蘇ってきたからだ。ホストが碌でもない訳ではない。過酷な競争に勝ち抜く為に仕方ない事だし、勝ち続けないとどんどん居場所や優先順位が下がってしまう。因果な商売だが、この世からなくならないという事は、需要があるという事である。

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