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8話

 

「分かんない。でも、初めて会った日に変な気持ちになった」


「変な気持ち?」


 瑠璃はすりガラスの窓を開ける。生温い風が部屋を滑る。カーテンのレールに付けた風鈴が揺れた。


「うん。多分だけど、恋だと思う。多分だけど」


「……」



 多分を強調する瑠璃は逃げ道を探していた。こんなかたちで自ら告白するとは思っていなかったからだ。断られる可能性が極めて高い事はわかっていたし、自分はヘドロの沼より汚く、臭いものだと思っているから、同世代がキラキラした瞳で語るそれらは高嶺の花だと諦めていた。



「ありがとう。今時の若い娘からそんな事言われたら何だか力が湧いてくるよ」


「ほんと? 私、役に立ってる? 拓哉の役に立ってる?」


 そう言った瑠璃の瞳は同世代の誰よりも美しくキラキラと輝いていた。暗闇を知るからこその輝きである。


 “虹を見たければ雨がやむのを待つしかない”瑠璃はその歳で十分にずぶ濡れであった。誰かに恋をして、そして愛する事に資格などないし、誰にも咎める事など出来ない。



「返事はいらないの。拓哉が少しでも笑ってくれるなら私はなんだってするんだ」


「ありがとう。犯罪者の僕にそんなふうに思ってくれて」


「犯罪者じゃない! お父さんも絶対違うって言ってたから」



 拓哉は瑠璃の瞳に吸い込まれそうになったが、ギリギリのところで踏み止まっていた。自分以外の誰かが信じてくれている、それも肉親ではなく赤の他人である娘にだ。泣き崩れそうになったが、親子でもおかしくない年齢差の娘の前で泣く訳にはいかなかった。



「お父さんからは大体しか聞いていないの。拓哉、一体何があったの?」


「……起きたら……横で死んでたんだよ」


「でも、死んだ理由何となく分かる。私も相手が拓哉なら同じ衝動に駆られるかも」


「……何で? 死んだら終わりじゃん」


「終わりとかどうでもいいんだよ。拓哉は一生その人の事忘れないでしょ?」


「……うん」


「それが目的なのよ。拓哉の中で生きていられるから」


 瑠璃の話しを聞いて理解しようとしたが、拓哉の思考を遥かに超えていた。2人の共通点もあるようで見当たらない。2人とも女だという事、時代は違うが同世代であるという事以外は何も浮かばなかった。

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