6話
「開けて」
ドアを叩く鈍い音が聞こえた。文化住宅の2階、表札は段ボールの切れ端、瑠璃がいかにも今時の子の字体で“桐敷”と書いたものがセロテープでドアに貼られている。呼び鈴などはない。拓哉はドアを開けた。いつものジャージ姿の瑠璃がビニールの袋片手に立ったいた。
「どうしたの? 今日休みだったよね」
「どうせろくなもの食べてないと思ったから」
瑠璃はビニール袋の中身を見せた。人参やじゃがいも、市販のカレーのルー等が見える。
「カレー? 瑠璃ちゃん、気を使わないで」
「私がそうしたいだけ! 迷惑?」
「いや、有り難いよ。とりあえず中入って。隣の叔母さん、物音とか音にうるさくてさ」
「引越しの時も凄く見てたよね」
「とりあえず入って」
瑠璃は週に一度、拓哉の部屋に日用品や食料を持ってくる。まるで捨て猫や捨て犬を世話するかのような感覚だろうと拓哉は思っていたが、最近の瑠璃の態度からしてそうではないと感じ始めていた。
「今からカレー作るから掃除しておいて」
「汚い?」
「毎日ほこりとか出るんだから。こまめに掃除しないと変な病気になるよ」
「掃除機の音、隣の叔母さん嫌がらないかな? 来月には出て行く話しを聞いたけど」
「大丈夫だよ。朝早い訳でもないんだから。いいじゃない。多少の物音で怒られなくてすむじゃない」
リサイクルショップで買ったクリーム色の丸い掛け時計を見ると10時を少し過ぎたぐらいだった。生活音が迷惑と感じる時間帯ではないが、隣からそういう類いの音が聞こえた事はない。瑠璃にその事をいうと「実は住んでないんじゃない?」とまるで興味のない返答だった。拓哉はリサイクルショップで買ったかなり旧式の掃除機を“弱”にして畳を滑らせた。六畳一間、みすぼらしいキッチンのみの部屋だが、住めば都とはよく言ったもので居心地は最高で、良く眠れる。
「あれじゃない? 仕事でこき使われてるから疲れてるんだよ」
「そうかな。刑務所より楽だよ」
「刑務所がどれだけ辛いか分かんないけど」
刑務所で高待遇だった理由を瑠璃に聞いてもらいたい衝動に駆られた。たかが娑婆の最新情報や、グッズ等で身体を売っていた事をどう感じるのか単純に知りたかったし、それを告げれば、単純に距離を置くんじゃないかと思ったからだ。




