4話
母親の隣に座ろうとしたが、焦茶色のコートが置かれていた。この時点で、愛情のカケラもないと悟る。そして、第一声が金の話しだ。微かな記憶が鮮明になり、彼女とどう向き合っていたかを思い出す事が出来た。そう、決して“期待しない”という事を。
「何がおかしいんだい?」
「いや、期待しないって事の徹底を怠ってしまった自分に腹が立っただけさ」
「小難しい事言ってんじゃないよ。早く出しな!」
拓哉は置かれたコートの隣に腰を下ろした。
「もうこれで会う事もないと思う」
「そうだね。金のないのは首がないってね、昔から言うのさ」
拓哉は銀行の封筒を母親に渡す。彼女は、中身を早く確認したいのか分からないが、雑にそれを破いていた。
「確かに。少ないから直ぐに数え終わったけどね」
年齢に合っていない真っ赤な口紅に、濃いアイシャドウ、捨てられた時が25、6だったから、もうすぐ60になるはずだ。とてもそんな年齢には見えないが、お金を数えている時に見せた口元がとても卑猥で、嘔吐しそうになった。
「お二人は恋人?」
「やだ! お兄さん、そう見える?」
「恋人同士じゃないなら、お姉さん?」
「お兄さん、結婚してよ。ありがとう! 息子よ! 息子」
目元だけ日焼けしていないところを見るとスキー焼けだろうか、白髪混じりのロングヘアを一つに束ねている髪型のせいか、大人の男の色気が漂っている。
「息子さん? 見えないよ。似ていないし」
「お兄さん、後で電話番号教えて。メールアドレスも」
マスターは苦笑いをしながらこちらを見ている。『完全なお世辞なのにその気になってるお前の母親大丈夫なのか?』と言わんばかりの眼差しだ。母親は下半身をもぞもぞし始めていて、目も虚になっていた。真冬なのに、皮のホットパンツ姿でいる彼女はこの先もずっと変わらずこういうスタンスなんだろう。
「先にこっちの話しを終わらすからマスター待っててね」
「とりあえず、ホットコーヒー二つ出来ました」
何の変哲もない白いコーヒーカップからそれなりの香りが立ち込める。長時間ではないが、店の前にいたから身体が冷えていた。拓哉はブラックでそれを一口含む。




