3話
商店街の一番端、アーケードの手前にある喫茶“あとりえ”の前で待つ。19時前の約束だった。今年から来年にかけての平均気温をニュースで見たが、例年より冷え込む日が多いとの事だった。商店街の中ももちろん寒いが、アーケードを出た瞬間、凍てつくような北風が吹き抜ける。安物のダウンジャケットでがとてもじゃないが防寒出来ない寒さだ。
子供の頃に別れて以来会っていない母親と寂れた喫茶店で会う年末──ある本には、前世の行いの精算を今世で払うと書いていた。このくそったれな人生の根源は前世の行いにあるんではないかと真剣に考える事もあった。当然、この母親を恨んだ時期も少なからずあった。だが、二つほど感謝しないといけない事がある。それは、健康な身体とこの容姿だ。努力等ではどうする事も出来ないものが、基本スペックとして備わっていた事に関しては母親には礼を言わないといけない。
「あんたかい? 私の息子は?」
背中を叩かれて振り返る。
「……」
思わず絶句した。何故なら想像していた姿とはまるで違っていたからだ。
「さすが私の息子ね。良い顔してるわ。髪型はちょっとふざけているけどね」
拓哉は少し伸びた毬栗頭を撫でる。
「身長はさほどでもないわね。一応、合格だな」
「……」
「なんだい? 私の顔に何か付いているのかい?」
心の中に映す母親の顔はマジックで塗り潰していたはずだったが、実物を見て一瞬であの頃の記憶が蘇る。もちろん全く変わっていない訳ではないが、ほとんどあの頃の母親のままだった。
「どうしたのさ? 寒いから入るよ」
母親は先に喫茶店の中へと消えていった。オレンジ色のテントに屋号が書かれているが、ところどころ剥がれている。拓哉は、年季の入った木製のドアを開ける。
「こっちだよ」
母親は一番奥のカウンター席に座っていた。テーブルなど置くスペースもない狭い店内だ。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうに40代後半ぐらいのイケおじ風のマスターが、使い捨てのお手拭きを拓哉の前に置く。
「何になさいますか?」
「ホットコーヒーで」
「かしこまりました」
おしゃれな髭を蓄えたマスターが、銀色のポットに水を入れている。店内はコーヒーの香ばしい香りが漂っていた。
「はい。先払いね」
「何が?」
「何がってお金よ」




